製造業のオウンドメディアは、会社案内とは役割を分けた「困りごとの名前を付けた技術相談サイト」として作ると組み立てやすくなります。設計者が検索する言葉で入口を作り、事例と技術解説で信用してもらい、どのページの最後にも相談の入口を置く形です。置き場所は、まず会社HPと同じドメインの中で足ります。
技術相談サイトとは何か
技術相談サイトは、図面や課題を持った人に「ここなら相談できそうだ」と思ってもらうための区画です。会社案内や採用情報は混ぜず、事例・技術解説・よくある質問と相談口だけで組みます。
会社HPが「私たちはこういう会社です」を伝えるのに対し、技術相談サイトは「その困りごとなら、こう解決した例があります」を伝えます。読み手が先に知りたいのは会社の沿革ではなく、自分の図面を受けてもらえるかどうかです。そこに合わせて、会社の紹介は最後に回します。
会社HPとの違いはオウンドメディアと会社ホームページの違いでも整理しています。
ある樹脂成形メーカーの技術相談サイト
この型には、手本にしている実例があります。ある樹脂成形メーカーが、会社HPとは別に技術相談のサイトを運営していて、事例・実績・技術解説を積み上げています。
公開ページを見て分かる構造は次のとおりです。
- サイト名は会社名ではなく、加工の名前と「困ったら相談できる」という意味の言葉を組み合わせている
- トップの入口は「材質から探す」「形状・用途から探す」「業界から探す」の3本
- どのページの最後にも、相談の入口がある
- 相談フォームには図面などのファイルを添付できる
注意
このサイトで問い合わせや受注が何件増えたかは公開されていません。私たちも知りません。ここで書けるのは、外から誰でも確かめられる構造だけです。
以下は、この構造を私たちなりに分解し、ほかの加工の会社でも使える形にしたものです。
サイト名は「困りごと」で付ける
サイト名は「〈加工名〉の相談窓口」「〈加工名〉でお困りの方へ」のように、検索される言葉と頼る理由を1行に入れます。社名だけのサイト名では、社名を知らない人に何のサイトか伝わりません。
加工名は、設計者が検索窓に打つ言葉にします。社内で「B曲げ」と呼んでいても、外の人がそう検索しなければ意味がありません。候補をいくつか出して、検索数を測ってから決めます。
ドメインは、まず会社HPと同じにして /soudan/ のような場所に置くのが早道です(理由はオウンドメディアと会社ホームページの違い)。困りごとの名前でサイトそのものを独立させたいときだけ別のドメインにし、会社HPは運営会社ページとフッターからリンクして信用の裏付けにします。新しいドメインは、検索に出始めるまでに時間がかかります。言い回しは社長の口ぐせに合わせると、記事の文体とも揃います。
入口は材質・加工・業界の3つで分ける
入口(分類)は、図面を持った人の頭の中の順番で分けます。会社の部署や設備の並び順にすると、外の人には探しにくくなります。
決め方は次の4段階です。
- 最近の問い合わせを10件ほど思い出してもらい、最初の一言を書き出す
- その一言に出てきた言葉を、3種類に振り分ける
- それぞれ8〜15個に収める。多すぎたら問い合わせの少ないものを消す
- 事例と実績には、3種類のタグを必ず全部付ける
3種類とは次のとおりです。
| 種類 |
例(板金加工の場合) |
| 何でできているか(材質) |
SUS304、アルミ、SPCC、板厚 |
| 何をしたいか(加工・用途) |
曲げ、溶接、歪み取り、筐体、ブラケット |
| どこで使うか(業界) |
食品機械、半導体装置、建築金物 |
たとえば「SUS304の3.2で、曲げたあと溶接すると歪む」という相談なら、材質はSUS304、加工は曲げと溶接、困りごとは歪みです。この言葉がそのまま入口の名前と記事の題名になります。
トップには、この3種類のさらに上に、困りごと別の入口を置きます。「歪む・割れる」「コストが下がらない」「急ぎ・少量」のように、相談の動機で分けたものです。階層の組み方はハブページと階層構造の作り方で詳しく扱っています。
事例記事がこの型の心臓部
課題解決事例は、読んだ人が自社の課題に対応できるかを判断する材料になります。技術解説で見つけてもらい、事例で「この会社なら頼めそうだ」と判断してもらう流れです。
題名は「〈材質・工法〉で〈部品名〉の〈何が良くなったか〉」の形にします。検索で拾われる材質名・部品名と、読み手が欲しい結果が1行に入ります。
本文は次の順番で書きます。
- 要約:材質・加工・数量・業界・結果
- 相談前:困っていたことを、お客様の言葉に近い形で2〜3行
- なぜ他社では難しかったか
- やったこと:3段階まで。図か写真を1枚
- 結果:数字か、「〇〇が不要になった」のような事実
- ポイント:同じ悩みの人が真似できる判断基準を1つ
数字はお客様と社長が確認したものだけを載せます。「コスト30%削減」のように盛った数字は、設計者にはすぐ見抜かれます。事例の書き方は課題解決事例の書き方にまとめました。
事例とは別に、加工実績を部品1つずつのページで持っておくと、「探す」ページで材質・加工・業界を絞ったときに候補が残ります。
よくある質問は1問1ページにする
よくある質問は、1つのページに並べるのではなく、質問1つにつき1ページにします。「アルミの溶接はどの板厚から受けられますか」のような短い問いは、それ自体が検索されるからです。1ページに20問並べると、どの問いの答えなのか検索エンジンにも読み手にも伝わりにくくなります。
1ページの中身は、質問・答え・関連する事例・相談口で足ります。答えを先に書き、条件で変わる部分は「板厚〇mm以下なら」のように分けて書きます。
技術解説は、社長と技術者の話から書く
技術解説のコラムは、検索からの入口の本体です。困りごと1つにつき1本を書き、公開後も毎月足していきます。
中身は社長や技術者に聞いた話から作ります。AIに「〇〇加工の注意点」を書かせると、教科書に載っていることは並びますが、どの会社でも書ける記事になります。Googleも、実際に経験した人の知識が表れているかを、コンテンツを評価するときの問いとして挙げています(Google 検索セントラル:有用で信頼性の高い、ユーザーを第一に考えたコンテンツの作成)。
AIを避ける必要はありません。下書きや整理はAIに任せ、どの条件なら受けられるか、どこで断るかという現場の判断を人が足します。聞き取りの進め方は社長・技術者への聞き取りから記事を作る手順にあります。
全ページの最後に、相談の入口を置く
どのページの最後にも、相談フォームへの入口を置きます。技術解説から入った人も、FAQから入った人も、読み終えた場所から相談できます。勧める行動はこの1つに絞り、電話(受付時間つき)や資料ダウンロードは、補助の連絡手段として小さく添えます。
ボタンの文言は記事ごとに変えます。事例なら「この事例と似た図面を相談する」、技術解説なら「うちの図面でも同じことが起きるか聞く」のように、読み終えた人が次に言いたいことを書きます。
相談フォームは、図面を添付できることが必須です。項目の削り方や、送信まわりで起きる事故はBtoBサイトの問い合わせ導線で詳しく書きました。
資料ダウンロードで、名前を残す
技術資料のダウンロードは、「まだ相談するほどではないが、情報は欲しい」人の名前を残すためにあります。材質の選び方の早見表、加工の可否の目安、設計時の注意点などを資料にし、フォームに記入してもらって渡します。
フォームの項目は相談フォームとほぼ同じにします。資料を読んだ人が後日相談するとき、誰なのかがすぐ分かるからです。展示会に来る人を待つのではなく、検索で来た人の名前が日々たまっていく仕組みになります。
どんな相談が来るサイトになるか
この型が狙っているのは、値段の比較ではなく、課題を持った設計者からの相談です。
一括見積もりのサイトに来るのは、図面を何社かに投げて一番安いところを探す人が中心になります。技術相談サイトの入口は「〇〇 歪み 原因」「〇〇 材質 置き換え」のような困りごとの検索なので、たどり着く人はまだ解決策を持っていません。事例と技術解説を読んだうえで相談してくるので、「この事例と同じように、うちの部品でもできないか」という形の話になりやすい、というのが設計の考え方です。
どれだけそうなるかは会社と業種で変わります。私たちが数字で約束できるものではありません。
公開までの順番と、その後
作る順番は次のとおりです。
- 聞き取り:最近の問い合わせ、よそで断られた仕事、得意な材質
- サイト名とドメインを決める
- 入口の分類を決め、事例の下書きを作る
- トップ・探すページ・相談フォームを作る
- 実績・FAQ・技術解説をそろえ、スマホとPCの各画面幅で表示を確かめて公開
公開した日にSearch Consoleをつなぎます。数か月たったら「表示されている検索語」を見て、次に書く記事を決めます。見る数字はSearch Consoleで最初に見る4つの数字にまとめました。公開から数か月は、成果よりも記事を足し続けることが仕事になります(立ち上げ間もない4サイトの実測)。
この型が合わない会社
図面を持った人が相談に来る仕事でなければ、この型は合いません。カタログ品の販売が中心の会社や、新しい取引先を増やす予定がない会社は、会社HPを整えるほうが先です。
事例を出せない会社も難しくなります。取引先の許可が取れず、部品の写真も出せないなら、心臓部の事例が作れません。その場合は技術解説とFAQから始め、許可の取れた事例から足していきます。向き不向きの判断はオウンドメディアが向いている会社・向かない会社にも書きました。
オウンドメディア全体の考え方は、オウンドメディアのカテゴリにまとめています。