ペーパーレス化とは、紙で受け取る、紙で回す、紙でしまう仕事を、データで済む形に置き換えていくことです。紙を一度に全部なくす取り組みではありません。書類を1種類ずつ選び、置き換えたら手間が減ったかを確かめて、次の書類に進みます。
進める順番は、紙を数える、外から届く紙、社内で回す紙、しまう紙、現場の紙です。とくに外から届く請求書や注文書は、税の保存の決まりが関わります。ここを先に確かめないと、置き換えたあとで保存のやり直しが出ます。
最初に、紙を数える
会議で「ペーパーレス化しよう」と決めても、どの紙から手を付けるかが決まらなければ進みません。まず、社内を回っている紙の書類を書き出します。
| 書類 |
届く先・回る先 |
月の枚数 |
誰が何をしているか |
| FAXの注文書 |
営業 → 生産管理 |
例:200枚 |
品番と数量を打ち直す |
| 仕入先の請求書 |
経理 |
例:80枚 |
会計ソフトに入力・保管 |
| 有給・出張の申請 |
本人 → 上長 → 総務 |
例:30枚 |
印をもらって回す |
| 検査記録 |
検査 → 品質保証 |
例:500枚 |
手書きして綴じる |
枚数は例です。自社の数字は、1か月分の紙を実際に数えて入れてください。表ができると、打ち直しに時間を取られている書類と、回すのに日数がかかっている書類が見えてきます。
選ぶ基準は2つです。毎月同じ形で届く書類であること。そして、人が打ち直したり、机から机へ運んだりしている書類であることです。月に数枚しか出ない書類や、取引先ごとに形がばらばらな書類は後回しにします。
外から届く紙:注文書と請求書
製造業でいちばん多いのは、取引先からFAXや郵便で届く注文書と請求書です。こちらの都合だけでは紙を止められないので、届いたあとの扱いを変えます。
FAXは、受け取り方を変える
複合機の多くは、受け取ったFAXを紙に出さず、データとして共有フォルダやメールに送る設定ができます。紙を配る手間は、これでなくなります。品番や数量の打ち直しまで減らすなら、画像から文字を読み取るOCRを使います。読み取る欄の決め方と、人が確かめる場所の置き方はOCRの入れ方で説明しています。
FAXをデータで受け取ると、保存の扱いが変わる
国税庁の電子取引の一問一答(令和8年7月)は、電子取引の例として、ペーパーレス化されたFAX機能を持つ複合機を使った取引を挙げています。紙で受け取っていた注文書や請求書をデータで受け取るようにしたら、そのデータを決まりに沿って保存する必要があります。設定を変える前に、経理と顧問の税理士に伝えてください。
請求書は、データで受け取ったら紙で終わらせない
取引先から請求書がPDFで届くようになると、紙は減ります。ただし、そのPDFを印刷して綴じれば済む、という扱いはできません。国税庁の一問一答は、令和3年度の税制改正で、データを紙に出して保存する方法が廃止されたと説明しています。
何を、どう保存すればよいかは電子帳簿保存法の解説にまとめました。ペーパーレス化の計画を立てる人と、経理の担当者が一緒に読む前提で書いています。
社内で回す紙:申請と報告
有給の申請、出張の精算、日報、設備の点検の報告のように、社内だけで回る紙は、取引先との調整が要らないぶん置き換えやすい書類です。
置き換える先は、大がかりな仕組みでなくてかまいません。Googleフォームで受け付け、回答をスプレッドシートにためる形なら、小さな会社でもすぐに試せます。受け口の作り方はGoogleフォームの記事で、届いた申請を上長にメールで知らせるような自動化はGASの記事で説明しています。
はんこの欄をどうするか
申請書のはんこの欄は、紙を回す理由になりがちです。社内の承認なら、誰がいつ承認したかがデータに残れば、はんこの代わりになります。社内の規程にはんこの決まりがあれば、規程のほうを書き換えます。
取引先との書類について、内閣府・法務省・経済産業省は令和2年の押印のQ&Aで、特段の定めがある場合を除き、契約に押印をしなくても契約の効力に影響は生じないと説明しています。ただし、相手の会社が押印を求めているなら、こちらの判断だけでは変えられません。取引先ごとに話をして決めます。
しまう紙:保管している書類
倉庫の段ボールや書庫に眠っている書類を、全部スキャンするのは後にします。いま毎日増えている紙を止めるほうが先です。過去の紙をデータにしても、手間はほとんど減りません。
税の決まりで保存する書類(請求書・領収書・注文書など)は、紙で受け取ったものをスキャンして保存することもできます。ただしこれは、電子帳簿保存法のスキャナ保存という、決まった要件を満たしたときだけの扱いです。国税庁のスキャナ保存の一問一答は、たとえば読み取りの解像度を200dpi以上とし、赤・緑・青をそれぞれ256階調以上で読み取ることを挙げています。スキャンしたから紙を捨ててよいとは限らないので、捨てる前に確かめます。
現場の紙:検査記録と作業指示
検査記録や作業指示書は、工場の中で使う紙です。手袋をしたまま書ける、油で汚れても読める、という理由で紙が残っていることがあります。ここは現場の人の手間を増やさないことを優先します。
いきなりタブレットに入力させるより、まず紙の書式をそろえて、OCRで読み取りやすくする方法もあります。現場で書く手間は変えず、事務所で打ち直す手間だけを減らします。入力の場所を変えるのは、そのあとで十分です。
世の中の会社は、どこまでデータで回している?
総務省の通信利用動向調査(令和7年調査、令和8年5月29日公表)では、クラウドサービスを一部でも使っている企業は83.5%、全社的に使っている企業は60.0%でした。使っているサービスの内容は、ファイル保管・データ共有が73.3%で最も多くなっています。
この調査の企業調査は、常用雇用者が100人以上の企業が対象です。従業員が数十人の会社の実態はこの数字には入っていないので、自社と比べるときは規模の違いを差し引いて読んでください。
置き換えたら、何を確かめるか
1種類の書類を置き換えたら、1か月使ってから次に進みます。見るのは次の点です。
- 打ち直しや配る作業にかかっていた時間が、実際に減ったか
- 紙とデータの両方で回す「二重の運用」になっていないか
- データの置き場所を、担当者が休んでも誰かが開けるか
- 税の保存の決まりに沿って保存できているか(請求書・注文書など)
二重の運用が続くと、手間はかえって増えます。紙を残す理由がある書類は、紙のままにすると決めてかまいません。どの作業から道具を入れるかの考え方は業務効率化ツールの選び方に、社外のサービスに書類を出すときの社内の決め方はAIの社内ルールにまとめています。オウンドメディアやAIによる業務効率化の全体はオウンドメディアのカテゴリから読めます。
確認日:2026年10月25日(国税庁の一問一答、法務省の押印についてのQ&A、総務省の通信利用動向調査)。