記事の元になる話は、社長や技術者の頭の中にすでにあります。聞き出し方は「最近の問い合わせ10件の最初の一文を思い出してもらう」ことです。出てきた言葉を材質・やりたい加工や用途・業界に分け、1つの問いを1ページにします。
なぜ「何を書きたいですか」と聞いてはいけない?
「オウンドメディアで何を書きたいですか」と聞くと、多くの社長は「会社の強み」「技術力」と答えます。これは記事になりません。お客様が検索窓に打つ言葉ではないからです。
一方で、具体的な相談は驚くほど覚えています。「先月、PPの成形品でヒケが出るって相談があった」「アルミの薄い部品を削るとびびるって話が2回あった」という形です。この一文のほうが、検索される言葉にずっと近くなります。
社長だけでなく、電話を最初に取る事務の方や営業担当にも同じことを聞いてください。社長の耳に入る前に断っている相談や、「うちではやっていない」と答えている相談もあります。断った相談の言葉は、自社が書くべきでない記事を見分けるのにも使えます。
聞き方を変えるだけで、出てくるものが変わります。
- 悪い聞き方:「御社の強みは何ですか」
- 良い聞き方:「最近の問い合わせで、相手は最初に何と書いてきましたか」
聞き取りの手順
最初の聞き取りは、次の流れで進めることを提案します。
1. 問い合わせ10件の「最初の一文」を集める
社長か営業の窓口の方に、直近の問い合わせや見積もり依頼を10件ほど思い出してもらいます。メールが残っていれば、画面を見ながらでも構いません。
拾うのは、相手が最初に書いた一文です。こちらが整理した言い方ではなく、相手の言葉のまま書き取ります。「成形不良の対策依頼」ではなく「ヒケが消えない」、「精密加工の相談」ではなく「公差±0.01が出ない」です。
2. 言葉を3つに分ける
集めた一文から言葉を抜き出し、次の3つに分けます。
| 分類 |
例(樹脂成形・切削の会社の場合) |
| 材質 |
PP、PC、POM、ABS、A5052、SUS304 |
| やりたい加工・用途 |
薄肉、インサート成形、ヒケ対策、バリ取り、試作1個から |
| 業界 |
医療機器、食品機械、自動車の内装、半導体装置 |
これは例です。会社によって、材質より工法が先に来ることもあれば、業界の縛りが一番強いこともあります。
3つに分けると、何度も出てくる組み合わせが見えます。「POM×薄肉」が3回、「SUS×食品機械」が2回、という具合です。回数が多い組み合わせほど、同じ悩みを持つ人が検索している可能性が高いと見て、先に記事にします。
3. 1つの問いを1ページにする
1ページで扱う問いは1つだけにします。「樹脂成形の不良対策まとめ」のような1ページに全部を載せる作りにすると、どの検索語にも中途半端にしか答えられません。
- 「PP 成形品 ヒケ 肉厚を変えずに」→1ページ
- 「POM 薄肉 反り」→1ページ
- 「SUS304 食品機械 溶接 焼け」→1ページ
似た問いが増えてきたら、それらを束ねる受け皿のページを作ります。束ね方はミドルワードとは:受け皿ページの作り方とハブページと階層構造の作り方で説明しています。
4. 1本ごとに技術者へ追加で聞く
記事の候補が決まったら、実際に対応した技術者に話を聞きます。ここで聞くのは、次の5つです。
- その相談が来たとき、最初に何を確かめたか
- よくある原因は何で、そのときは何だったか
- 試してうまくいかなかったことは何か
- どういう条件なら、この方法を勧めないか
- 相談する前に、お客様が準備しておくと話が早いもの(図面、材質、数量、使う環境など)
3と4は、技術者が自分から話さないことが多い部分です。しかし、他社のページとの差が一番出るのもここです。「この形状ならうちの工法より別の工法のほうが安い」という話は、読んだ設計者にとって実際に役に立ちます。
5は記事の最後に置く相談の案内につながります。何を送ればいいかが書いてあると、問い合わせの心理的な手間が減ります。
5. 記事の設計表にまとめる
聞き取りが終わったら、候補を1枚の表にします。表にしておくと、どの記事が書けて、どれがまだ聞き取り待ちかが一目で分かります。
| 問い(お客様の言葉) |
分類 |
聞く相手 |
状態 |
| PP 成形品 ヒケ 肉厚を変えずに |
材質×加工 |
成形の技術者 |
聞き取り済み |
| POM 薄肉 反り |
材質×加工 |
金型の担当者 |
聞き取り待ち |
| 食品機械 SUS 溶接 焼け |
業界×材質 |
溶接の担当者 |
候補 |
これは例です。表の1行目が「問い」になっているのが肝心で、社内の言葉ではなくお客様の言葉で書きます。似た問いが3つ以上並んだら、束ねるページを作る合図です。
聞き取りは1回で終わらない
記事を公開すると、Search Consoleに実際に来た検索語が出てきます。聞き取りで拾った言葉と、実際に検索されている言葉は、たいてい少しずれています。
そのずれを持って、もう一度技術者に聞きます。「この記事に『ヒケ 修正 金型』という語で来ている人がいる。金型の側で直す話はできますか」という形です。1回目の聞き取りでは出てこなかった話が、具体的な検索語を見せると出てきます。
この2回目の聞き取りで、既存の記事に節を足すのか、新しい記事にするのかを決めます。同じ問いの言い換えなら節を足し、別の問いなら新しいページにします。
聞き取りで気をつけること
客先の情報は、許可が取れたものだけ
客先の社名、品番、図面の寸法は書きません。「医療機器メーカーの樹脂部品」のように一般化し、数字は客先に確認が取れたものだけを使います。書いてよい範囲は、聞き取りの最初に社長と決めておきます。
聞き取りの場では、話をきれいにまとめようとしないことも大事です。技術者の説明は、途中で脇道にそれます。「そういえば、あのときは材料のロットを変えたら直った」といった脇道の一言が、他社のページに無い情報だったりします。話の順番は気にせず書き取り、あとで記事の型に並べ替えます。
もう1つは、技術者の言葉をそのまま見出しにしないことです。社内では「外観不良」とまとめて呼んでいても、検索されているのは「ヒケ」「ウェルド」「シルバー」かもしれません。見出しには、お客様が最初の一文で使った言葉を優先します。
AIだけで書いた記事は、なぜ負ける?
AIで書くこと自体が悪いのではありません。GoogleはAI生成コンテンツに関するガイダンスで、作り方にかかわらず質の高いコンテンツを評価するとしています。
負ける理由は、誰でも同じものを書けるからです。「ヒケの原因は冷却時間と保圧の不足」という説明は、AIに頼めば数秒で出てきます。競合も同じように出せますし、すでに検索上位に並んでいます。
Googleの有用で信頼性の高いコンテンツの作成には、自己評価の問いとして次の2つが挙がっています。
- 「コンテンツは、独自の情報、レポート、研究または分析の結果を提示しているものですか」
- 「コンテンツは、実体験や深い知識(中略)を明確に示していますか」
AIだけではこの2つを満たせません。どちらも、聞き取りで社内から出してくるものだからです。私たちは下書きの整形や言い回しの確認にAIを使いますが、手順4で聞いた内容が入っていない下書きは公開しません。
私たちの実測:書いたつもりの言葉が、ページに無い
聞き取りの言葉がなぜ大事かは、私たち自身の失敗で分かりました。
暦のメディア(1,077ページ)で、Search Consoleに来ている(検索語, ページ)の組を取り出し、その語がページ本文に書かれているかを機械で照合しました。すると、来ている語がページに無いことが多くありました(検索語と本文を照合した暦メディアの事例)。
別のページでは、暦の読み方をかなで書いてあるのに「読み方」という語が一度もありませんでした。検索される言葉で書き直したところ、312ページが対象になりました。
聞き取りの言葉を使う理由
- 私たちが書いた言葉と、検索している人の言葉はずれる
- お客様の最初の一文は、そのずれが一番小さい
- だから見出しは、社内の言葉より問い合わせの言葉を優先する
聞き取りで集めた話を、ほかにどう使う?
聞き取りの中で「この案件はうまくいった」という話が出たら、課題解決事例の候補です。技術記事とは別の型で書きます。題の付け方や、結果に書いてよい数字の範囲は課題解決事例の書き方にまとめました。
集めた記事と事例を、製造業の技術相談サイトとしてどう並べるかは製造業のオウンドメディア:技術相談サイトの型を、読んだ人が図面を添えて相談できる入口の作り方はBtoBサイトの問い合わせ導線をご覧ください。記事づくり全体の流れはオウンドメディアのカテゴリにあります。