SASE製品は、機能の多さではなく、自社に必要な範囲、最低利用人数、月額の積み上げの順に比べます。IIJの解説によると、SASEは2019年にGartnerが提唱した考え方で、ネットワークとセキュリティの機能をクラウドでまとめて提供するものです。
今日やることは、紙1枚に5つの数字を書くことです。社員数、社外で働く人の数、拠点の数、VPNの月額、ファイアウォールやUTMの年間の保守費。見積もりを取る前にこの数字があると、製品の説明に引きずられずに済みます。
SASEには何が含まれる?
SASEは1つの製品名ではなく、機能のまとまりを指す言葉です。主な構成要素は次のとおりで、IIJの解説の整理に沿っています。困りごとと結びつけると、要らない機能が見えてきます。
| 機能 |
していること |
必要になる困りごと |
| ZTNA |
利用者と端末を確かめ、必要な範囲だけ接続を認める |
VPNをやめたい、社内のシステムに社外からつなぐ |
| SWG |
インターネットへの接続をクラウドで検査する |
社外のパソコンのWeb閲覧も守りたい |
| CASB |
クラウドサービスの利用を可視化し、制御する |
会社が把握していないサービスの利用を知りたい |
| FWaaS |
ファイアウォールをクラウドで提供する |
拠点の機器を減らしたい |
| SD-WAN |
拠点の回線をソフトウェアで制御する |
拠点の回線の遅さや費用を見直したい |
同じ解説は、SD-WANを除いてセキュリティに絞った考え方としてSSEも紹介しています。拠点の回線を変える予定がなければ、SASE一式を買う理由は小さくなります。
自社に必要な範囲はどう決める?
最初に決めるのは「何を任せたいか」です。範囲ごとに、比べる製品の分類が変わります。
- 社外から社内のシステムへつなぐ部分だけ変えたい:ZTNAの製品比較
- 社外のパソコンのWeb閲覧を守りたい:SWGの製品比較
- 拠点の回線とセキュリティを一度に見直したい:SASEの製品比較
拠点の回線の使い分けだけが目的で、すでにFortiGateがあるなら、今の機器でSD-WANを始める条件を先に確かめる手もあります。
範囲を決めるときに外せない問いは、VPNをどうするかです。警察庁の令和8年上半期の資料では、ランサムウェア被害組織へのアンケートで、侵入経路はVPN機器が約5割を占めます。VPN機器を残すのか、なくすのか。残すなら、更新の担当者を誰にするのか。これが決まらないまま比べると、月額だけ増える結果になりかねません。
もう1つの前提が、利用者の確認です。SASEのZTNAは「誰がつないでいるか」を確かめる機能なので、IDの管理が整理されているほど設定も楽になります。IDが部署ごとにばらばらなら、ID、端末、接続の順に揃える手順を合わせて読んでください。
最低利用人数で何が変わる?
中小企業の場合、最低利用人数で候補が減ることがあります。公開情報の例を2つ挙げます。
IIJセキュアアクセスサービスは、2023年9月の発表で50ユーザからの利用としています。MicrosoftのEntra Private AccessとEntra Internet Accessは、価格表に単価を載せていて、年間サブスクリプションで買う形です。
確かめるのは、最低人数そのものより、届かない場合の請求です。社員30人の会社に最少50ユーザの製品を当てるとき、50人分の請求になるのか、そもそも契約の対象外なのか。販売店を通すと条件が変わる場合もあります。
人数の数え方も確認してください。IIJの2022年の発表では、ユーザ単位の課金で、同じ人が端末を複数使っても追加料金はかからないと説明しています。逆に、工場の共用パソコンをどう数えるかは、製品ごとに聞くしかありません。
たとえば、3交代の工場で1台のパソコンを数人で使う製造業の場合です。1人1アカウントで全員分を払うのか、共用の1アカウントで済ませるのか。共用にすると、誰が使ったのかを追えなくなります。単価の差より、この決め方のほうが月額に効くことがあります。
月額はどう積み上げる?
単価×人数だけで比べると、後で合わなくなります。次の項目を並べてください。
| 項目 |
確かめること |
| 初期費用 |
初期設定を含むか、拠点ごとにかかるか |
| 1人あたりの単価 |
どの機能まで含むか、年払いが前提か |
| 機能の追加 |
ログの保存、CASBなどが別料金か |
| 拠点の接続 |
拠点ごとの機器、帯域による課金があるか |
| 運用 |
設定変更や監視を、自社と業者のどちらがするか |
公開されている価格で、計算の形を示します。価格は変わるので、見積もりの代わりにはなりません。
IIJの2023年9月の参考価格は税抜で初期費用550,000円、1ユーザ月額990円です(ファイアウォール タイプ2とリモートコネクトを使う場合)。50ユーザで計算すると月額49,500円、1年目の合計は1,144,000円、2年目は594,000円になります。
Microsoftの価格表では、Entra Private AccessとEntra Internet Accessがそれぞれ1ユーザ月749円相当(年払い、税抜、2026年11月7日確認)です。2つを30人で使うと、月額44,940円の計算です。
同じ「1人いくら」でも、中身が同じとは限りません。公式ページに価格を載せていない製品もあり、その場合は同じ条件で見積もりを取って比べます。
なくせる費用も入れて計算します。IPAの産業サイバーセキュリティセンターのゼロトラスト移行のすゝめ(2022年6月)は、新たに発生するコスト、不要になるコスト、得られる効果の時期を整理するよう書いています。VPNの費用がなくなる時期を、移行の完了後に置いてください。移行の期間中は両方の費用がかかります。
見積もりでは何を聞く?
同じ質問を各社に送ると、答えの差がそのまま比較表になります。
- 最低利用人数と、届かない場合の請求
- 共用端末と、工場の設備用パソコンの扱い
- 見積もりの単価に含まれる機能と、別料金の機能
- 拠点の接続に必要な機器と、その費用
- ログの保存期間と、取り出し方
- サービスが止まったときの業務への影響と、SLAの内容
- 設定変更を誰がするか。社内でするなら、必要な知識
- 契約の最低期間と、途中で人数を減らせるか
6は特に確かめてください。通信をクラウドに集めると、そのサービスの状態が業務に直接響きます。2は、工場の端末まで含めて考えるために聞きます。エージェントを入れられない古い端末は、対象の外に置く判断も必要です。ネットワーク全体の守りの順番はネットワークセキュリティのカテゴリにまとめています。
7は、専任の担当者がいない会社ほど大きな分かれ目です。設定画面を自社で触れるかどうかだけでなく、ログを見て異常に気づく役を誰が持つかまで聞いてください。IIJの2022年の発表のように、ログの分析や初動の対応を別のサービスと組み合わせて案内している例もあります。その場合は、月額の表に運用の費用も足します。
試験導入も、見積もりの条件に入れてください。全社に入れる前に、社外で働く数人で試すだけでも、接続の手間や業務アプリとの相性が分かります。工場を持つ会社なら、事務所の数人に加えて、生産管理のシステムを使う現場の担当者も試験の対象に入れてください。SASEの機能のうちファイアウォールに近い部分の整理は、次世代ファイアウォールとUTMの違いが参考になります。