SD-WANとは、複数の回線をソフトウェアで束ね、経路の選択や拠点の設定をまとめて管理する仕組みのことです。ソフトバンクの説明では、Software Defined WANの略で、ソフトウェア制御によりWANを動的に管理、運用するサービスとされています。
拠点が少ない会社でも効果が出ることはあります。ただし条件があります。今日やることは、困りごとを3つの質問で確かめることです。混む時間帯に業務が遅くなるか。回線が止まったら仕事が止まるか。拠点の設定変更に毎回人が出向いているか。すべて「いいえ」なら、SD-WANを検討する理由はほとんどありません。
ネットワーク全体の考え方はネットワークセキュリティの解説にまとめています。この記事は、導入するかしないかの判断に絞ります。
SD-WANは今の回線と何が違う?
回線そのものではなく、回線の使い方を制御する層です。フォーティネットの説明によると、物理的な回線から切り離された仮想の層で、複数の種類の回線を組み合わせ、インターネット上に暗号化した通り道を作ります。
SD-WANを入れても、回線が速くなるわけではありません。今ある回線を、通信の種類に応じて使い分ける仕組みです。
できることは主に4つです。
- インターネット回線、閉域網、4G/5Gなど複数の回線を併用する
- 通信の種類ごとに、どの回線を使うかを決める
- 回線の状態を見て、問題が出たら別の回線へ切り替える
- 拠点の設定を管理画面からまとめて変える
ソフトバンクは、現地に行かずに専用の管理画面から各拠点のネットワークを管理できる点を利点に挙げています。製品やサービスごとに範囲は違うので、自社で使う機能があるかは見積もりの時点で確かめてください。
なぜ必要になってきたのか
シスコの解説は、従来のWANは、拠点の利用者をデータセンターのアプリにつなぐためのもので、クラウド中心の使い方には合わないと説明しています。SaaSやクラウドの利用が増えると、本社を通る通信も増えるからです。
マイクロソフトのMicrosoft 365の接続の原則も、本社に通信を集めて検査してから外へ出す構成では遅延が出やすいとし、利用者の場所に近い出口からインターネットへ出す形を勧めています。これがローカルブレイクアウトと呼ばれる考え方です。
前提を確かめてください。各拠点がすでに直接インターネットへ出ている会社なら、この話はそもそも当てはまりません。
効果が出るのはどんな会社?
拠点の数より、次の条件に当てはまるかで判断します。下の表は、私たちが仕組みから整理した目安です。統計や実測に基づくものではありません。
| 今の状態 |
効果の見込み |
理由 |
| 拠点の通信を本社に集めて外へ出している |
出やすい |
Microsoft 365などの通信を拠点から直接出せる |
| 閉域網の費用が高く、容量が足りない |
出やすい |
インターネット回線と併用して使い分けられる |
| 回線の停止で業務が止まり、代わりの回線が無い |
出る場合がある |
複数回線の自動切り替えが使える |
| 拠点の設定変更に毎回人が行く |
出る場合がある |
設定を管理画面で変えられる |
| 拠点ごとに機器も保守会社もばらばら |
出る場合がある |
窓口と管理をそろえられる |
回線の使い方を先に調べる
判断の前に、拠点ごとの通信量を時間帯別に出します。何の通信が多いかも確かめます。機器のログで見られなければ、今の保守会社に聞いてください。
遅い原因が回線でないこともあります。Wi-Fiの機器が古い、ルーターの処理が追いつかない、社内サーバー自体が遅い。こうした原因なら、SD-WANでは解決しません。
製造業の場合、どこで効く?
たとえば、本社と工場2か所を閉域網でつなぎ、生産管理のサーバーを本社に置いている場合を考えます。工場からのWeb会議やクラウドへの通信も閉域網で本社を通っていると、生産管理の画面が混雑の影響を受けます。
SD-WANで、生産管理は閉域網、Web会議とMicrosoft 365は工場のインターネット回線、と分ければ混雑を避けられる可能性があります。
見落とせないのは、回線が切れた場合の扱いです。工場の生産管理が止まると出荷が止まる会社なら、切り替え時の動作を導入前に試験します。インターネット回線側に流すときの暗号化と、その時点で業務アプリがつながり続けるかを確かめます。工場の設備のネットワークは、SD-WANの話とは分けて考え、設備側へ通信が入らないようにしておきます。分け方はファイアウォールと工場の境目にまとめました。
SD-WANが要らないのはどんな会社?
次のどれかに当てはまる会社は、導入しなくてよいことが多いです。
- 拠点が1つで、回線の遅さに困っていない
- 拠点はあるが、各拠点が直接インターネットへ出てクラウドを使っていて、拠点間の通信がほとんどない
- 拠点間の通信が少量で、ルーターや今のファイアウォールの拠点間VPNで足りている
- 遅い原因が回線ではなく、Wi-Fiや社内機器にある
- 回線が止まっても、スマホのテザリングなどで短時間なら仕事が続けられる
- 導入後の機器やサービスの管理を担う人も委託先もいない
拠点が2つで、閉域網を使わず、インターネットVPNで困っていない会社に、SD-WANを勧める理由は小さいです。障害に備えたいだけなら、2本目の回線を引いて今のルーターで切り替えられないかを先に確かめます。多くの場合、そのほうが単純で済みます。
費用の比べ方
「閉域網より安くなる」という説明は、閉域網を使っている会社の話です。シスコやフォーティネットの説明も、高価なMPLSをインターネット回線に置き換える場面を想定しています。閉域網を使っていない会社は、SD-WANの分だけ費用が増えることがあります。今の回線費、機器の保守費と、導入後の月額を同じ条件で比べてください。
SD-WANの注意点は?
拠点から直接出すと、検査の場所が変わる
ソフトバンクの解説は、拠点から直接インターネットに出ると性能は上がる反面、セキュリティが弱くなりがちだと述べ、ルーターでのフィルタリングなどを挙げています。本社のファイアウォールを通らなくなる通信が生まれるためです。
対応は大きく2つです。拠点の機器で検査するか、クラウド側で検査するか。前者はSD-WAN機能を持つファイアウォール、後者はSASEが主な選択肢です。ファイアウォール機器の比較とSASEの製品比較を並べて見ると、違いをつかみやすくなります。
SD-WANの機器やルーターは、社外とつながる機器です。警察庁の令和7年の報告は、攻撃者が未修正の脆弱性や簡易なパスワード、設定の不備を悪用してネットワークに侵入すると説明しています。誰が更新するかを、契約の前に決めてください。
品質は元の回線に左右される
フォーティネットの説明でも、MPLSは保証つきの安定した品質を持ち、SD-WANの性能は使うブロードバンド回線に左右されることがあるとされています。自動の切り替えがあっても、切り替えの瞬間に影響が残る場合があります。
遅延に敏感な業務があるなら、インターネット回線だけに寄せず、閉域網を残す構成も選択肢です。
運用の知識が別に要る
管理画面は1つになっても、複数の回線とクラウドとの接続について理解する必要があります。フォーティネットも同様の点に触れています。担当者が兼任の会社なら、機器だけ買う形より、運用も含めて任せる形が現実的です。
検討するときはどう進める?
SD-WANの製品比較では、通信会社が機器と運用をまとめて提供するサービス型、メーカーの機器を自社や委託先で運用する機器型、機器をメーカーのクラウドへつなぐクラウド接続型に分けています。担当者が少ない会社は、回線と窓口を1つにできるサービス型から見ると比べやすいです。
進め方は次の順です。
- 拠点ごとの回線、費用、通信量、困りごとを1枚にまとめる
- 通信を、業務に必須のもの、クラウド、それ以外に分ける
- 回線を増やすだけで足りないか先に確かめる
- 1拠点で試し、切り替え時の動作を確かめる
- 検査の場所と、機器の更新の担当を決める
- 3年分の費用で、今の構成と比べる
社外の社員の接続もまとめて見直すなら、ZTNAとVPNの違いも一緒に読むと、拠点の話と人の話を切り分けられます。拠点が少ない会社にとって、SD-WANは早めに入れておくものではありません。困りごとに名前が付いてから検討して間に合います。