シャドーAIは、会社の端末や回線を通っていれば、どのサービスに通信したかを通信記録で確かめられることが多いです。ただし入力した内容や私物のスマホからの利用は、通常の記録だけでは分かりません。この記事は、調べる管理者に向けて、分かることと分からないことを分けます。
今日は、会社のファイアウォールかプロキシの記録を1行だけ見せてもらってください。宛先のURL、利用者名、送った量の3つが入っているかを確かめます。この3つの有無で、調べられる範囲がほぼ決まります。
通信記録で分かること、分からないこと
通信記録は、誰がどこへ通信したかの記録で、何を書いたかの記録ではありません。次のように分けて考えます。
| 確かめたいこと |
通常の通信記録 |
補足 |
| どのAIサービスへの通信か |
分かることが多い |
宛先のURLが残る機器のほうが精度は高い |
| いつ、どの端末からか |
分かることが多い |
利用者名が残らない機器もある |
| どれくらいの量を送ったか |
機器による |
文字か添付かは分からない |
| 入力した文章や図面の中身 |
分からないのが基本 |
復号の検査などが別に要る |
| 個人と法人のどちらの契約か |
分からないことが多い |
同じドメインなら宛先で区別しにくい |
| 私物のスマホや自宅からの利用 |
記録に残らない |
会社の回線や管理を通らないため |
IPAの情報セキュリティ10大脅威 2026の解説書は、管理者の対策として通信ログやCASBなどで利用状況を把握することを挙げ、同時に、個人アカウントの利用を会社が認識できないこともリスクとしています。記録は利用を見つける手段の1つであって、全部を映すものではありません。
機器によって残る項目が違う
同じ「ファイアウォールの記録」でも、中身は機器と設定で違います。MicrosoftのCloud Discoveryの解説には、対応する機器ごとに、宛先のURL、宛先のIP、利用者名、送信元のIP、通信量、送信量が取れるかを示す表があります。各機器の仕様書に基づく一覧で、たとえばCisco ASAのSyslogの行はURLと利用者名が「No」、Blue Coatの行はどちらも「Yes」です。
Microsoftの別の解説は、詳しい記録ほど見える範囲が広がるとし、利用者名を強く推奨、URLはIPアドレスより判定の精度が高いと説明しています。設定で変えられる項目もあるので、機器の型番と設定を保守の会社に確かめてください。
中身が見えない理由
AIサービスとの通信は、通常は暗号化されています。Fortinetの技術情報によると、同社のFortiGateで証明書の検査だけを使う場合、URLの全体は見えず、SNIという欄のドメイン名だけを判別できます。URLの全体を見るには、より深い検査が要ります。
つまり一般的な設定では「chatgpt.comのようなドメインへ通信した」までで、何を入れたかは残りません。製品で中身まで見る方法もあり、Zscalerは生成AI向けの案内でプロンプトの可視化とDLPによるブロックを挙げています。ただし暗号を解いて検査するぶん、対象の範囲や社員への説明を決める手間が増えます。
記録に出てこない利用
記録がゼロでも、利用がゼロとは言えない
- 会社の回線を通らない端末(私物のスマホ、自宅のPC)
- 社外で使う会社のノートPC(社外の通信を集める仕組みがない場合)
- 製品の一覧にないサービス
- 記録の保存期間より前の利用
社外で使う会社の端末は、仕組みで補えます。Microsoftは、Defender for Cloud AppsとDefender for Endpointの連携を案内しており、対象はDefender for Endpointに登録した端末です。裏を返すと、登録していない端末はこの方法の対象に入りません。
一覧の問題もあります。Microsoftは、Defender for Cloud Appsが3万1,000以上のアプリの一覧と照らすと説明しています。同時に、一覧にないアプリは既定では見つけられないとも書いています。新しい小さなAIサービスが出ると、一覧に載るまで差が出る可能性があります。
たとえば工場で、現場の写真から報告書の下書きを作りたい人を考えます。事務所のPCなら記録に残りますが、私物のスマホで撮って私物のアカウントに入れれば、会社の記録には何も残りません。写真に取引先の製品や設備が写っていても、記録からは気づけません。記録だけで安心せず、申告の機会を作る理由はここにあります。
調べる前に決めること
社員の通信を調べるには、準備が要ります。中小企業基盤整備機構のJ-Net21のQ&Aは、従業員の電子メールやインターネット利用のモニタリングについて、次の点を挙げています。
- 目的(取得する個人情報の利用目的)をあらかじめ特定し、社内規程に定めて従業員に明示する
- 実施の責任者とその権限を定める
- 実施について定めた社内規程案を作り、事前に社内へ徹底する
- 適正に行われているかを監査または確認する
同じページは、実施の理由、時間帯、収集する情報の内容を事前に通知することにも触れ、自動処理の結果だけで評価や雇用上の決定をすることは原則禁止とも書いています。通信量が多いという記録だけで、個人を評価しないでください。迷う場合は、社会保険労務士や弁護士に確認します。
「記録を見ている」と社員に知らせると見られにくい場所へ移るのでは、と心配するかもしれません。ただ、知らせずに調べて後から問題になるほうが、失うものは大きくなります。知らせることと、使ってよい道具を渡すことを同時に行います。
見つけたあとの動き方
記録で見つかるのは入口です。次の順に動きます。
- 宛先のサービスを一覧にし、部署単位で集計する
- そのサービスの規約と学習の扱いを確かめる
- 部署長に、どの業務で使っているかを聞く
- 取引先の資料や個人情報が入った可能性があれば、対応の担当へ回す
- 会社の道具で足りない部分を埋める
個人を問うのは、規程に反する入力の疑いが具体的にあるときに限ります。Microsoft Defender for Cloud Appsの案内は、未承認の印そのものは遮断ではなく監視をしやすくするものとし、その先に利用者への通知と代替アプリの提案、遮断を挙げています。Defender for Endpointを使う環境では、印を付けたアプリが自動で遮断されるとも書かれています。印を付ける前に、自社の設定でどこまで動くかを確かめてください。
調査から許可までの全体は、シャドーAI対策の進め方に順に書きました。
限界をどう埋めるか
見えない部分を、全部監視で埋めようとしないほうが現実的です。私物の端末までは、会社の記録では追いきれません。埋め方は3層に分かれます。
| 層 |
埋めるもの |
比較 |
| 記録を残す |
保存期間と検索のしやすさ |
統合ログ管理ツールの比較 |
| 通信を集める |
社外の端末、Webの制御 |
SWGの製品比較 |
| クラウド利用を見る |
サービスの洗い出しと制御 |
CASBの製品比較 |
入力の中身まで止めたいなら、AIセキュリティ企業の比較の見方にある種類の違いから確かめてください。
それでも残る部分には、社員が会社の道具を選ぶ理由を作ります。業務で使える道具があり、入れてよい情報が1枚で分かり、間違えたときに相談できる。この状態なら、私物へ移る動機は減ると考えられます。減ったかどうかは、記録と聞き取りを合わせて確かめます。限界を知っていれば、数字の読み違いを防げます。
AIの利用に関わるほかの論点は、AIセキュリティの記事一覧から確かめられます。