シャドーAI対策は、アンケートと通信記録で利用状況を調べ、使ってよい道具とルールを決め、記録で定着を確かめる順に進めます。先に禁止すると、調べる前に利用が見えなくなります。
今日は2つだけ動いてください。部署長に「AIを使っている業務を1つずつ」聞くことと、社内のファイアウォールやプロキシの記録が何日分残っているかを、管理している人か保守の会社に確かめることです。どちらも費用はかかりません。
なぜ調査を2本立てにするのか
IPAの情報セキュリティ10大脅威 2026の解説書は、職場にAIサービスの用意がないときなどに、従業員が個人で使うサービスを業務に使うことをシャドーAIと説明しています。あわせて、会社が個人アカウントの利用を認識できないこともリスクだとしています。
同じ資料はシステム管理者の対策として、IT資産管理や構成管理を行い、通信ログやCASBなどで利用状況を把握することを挙げています。ただ、記録だけでは業務の中身までは分かりません。人の申告だけでは、書き忘れと言い出しにくい利用が漏れます。だから役割を分けます。
| 調べ方 |
分かること |
分からないこと |
| アンケート |
業務の中身、入れた情報、困りごと |
書かれなかった利用 |
| 通信記録 |
会社の回線を通った宛先、時期、量 |
入力の中身、私物の端末からの利用 |
順番も同じです。MicrosoftのシャドーAI対策の手順書も、誰がどのAIを使っているかを把握する発見の段階を、遮断より先に置いています。
アンケートでは何を聞くのか
答えてもらえなければ意味がないので、最初に目的を書きます。「使ってよい道具を会社で用意するための調査で、回答を理由に処分はしない」と、社長の名前で伝えてください。処分しないと決められない事情があるなら、聞き取りを部署単位の集計にとどめる方法もあります。
質問は5つで足ります。
- 業務で使ったAIサービスの名前(覚えていなければ「画像を作るもの」など用途でよい)
- 会社のアカウントか、個人のアカウントか
- 何の業務に使ったか
- どんな情報を入れたか(公開情報、社内資料、取引先の資料、個人情報)
- 使えなくなると困る業務はどれか
5つ目がいちばん役に立ちます。困る業務が見えると、次に用意する道具の条件が決まるからです。
たとえば金属部品のメーカーで、営業が見積書の送付文に、設計が英文の仕様書の読み下しにAIを使っている場合を考えます。同じ「AIの利用」でも、設計の使い方には取引先から預かった資料が入ります。会社が先に手を打つのは、件数の多い業務より、預かり情報が入る業務です。
回答の期限は1週間ほどに区切り、未回答の部署には部署長から聞いてもらいます。工場や現場には会社のメールを持たない人もいるので、紙か朝礼の聞き取りを混ぜてください。
通信記録で何を確かめるのか
アンケートで挙がったサービス名と、よく知られたAIサービスのドメインを、ファイアウォールやプロキシの記録で探します。保守の会社に頼むなら「直近1か月で、次のドメイン宛ての通信が、どの端末や利用者から、どれくらいあったか」と依頼すれば通じます。
機器によって、記録に残る項目は違います。URLや利用者名が残らない機器もあります。この差と調べ方の限界は、シャドーAIは通信記録でどこまで分かるかに分けました。
製品を使う場合は、記録を手で読み込ませて評価する形もあります。Microsoft Defender for Cloud AppsのCloud Discoveryは、通信記録を3万1,000以上のクラウドアプリの一覧と照らします。スナップショットレポートは、ファイアウォールやプロキシの記録を手動で読み込む方式です。一覧にないアプリは既定では見つけられない点に注意が要ります。
誰かを探すための調査にしない
記録を見る目的は、会社に足りない道具を知ることです。個人の特定から入ると、次の調査で正直な答えが返らなくなります。従業員の通信を監視する場合は、目的を社内規程に定めて事前に知らせる準備も要ります。
使ってよい道具はどう決めるのか
調査の結果を業務ごとに並べ、候補のサービスを3点で確かめます。
入力が学習に使われるか
サービス名でなく、プランで見ます。OpenAIの案内では、個人向けのFree、Plus、Proは内容が学習に使われることがあり、利用者が選べます。ChatGPT Business、Enterprise、APIの入出力は、既定では学習に使わないとしています。
Anthropicも法人向け製品の入出力を既定では学習に使わないとしつつ、評価ボタンなどで送った内容は例外になり得ると書いています。Microsoftは、組織で使うCopilot Chatのプロンプトと応答を基盤モデルの学習に使わないと説明しています。
これらは確認した時点の案内です。契約の前に、最新の公式ページと約款を見てください。
管理者が利用者を管理できるか
退職者のアカウントを止められるか。多要素認証を全員に求められるか。誰が使っているかを一覧で見られるか。この3つを確かめます。個人アカウントを許可した場合、会社はどれも手を出せません。
契約が自社の取引条件に合うか
IPAの解説書は、AIサービス契約時の約款の確認を対策に挙げています。製造業で見落としやすいのは、取引先との秘密保持契約です。外部サービスへの入力を禁じる条項があれば、学習に使われないプランでも、預かった図面や仕様書は入れられません。
3点を確かめたら、業務ごとに次の3つへ振り分けます。
| 判断 |
条件 |
例 |
| 許可 |
3点とも問題がない |
会社契約の道具で文章の下書きを作る |
| 条件つき許可 |
入れる情報を限れば問題がない |
社名と品番を消した文章だけを入れる |
| 認めない |
学習の扱いや契約が確かめられない |
提供元の分からない無料の翻訳サービス |
認めないものには、代わりの道具を必ず添えてください。代わりがないと、業務は止まらず利用だけが見えなくなります。
ルールは何を書けば足りるのか
全社に渡す文書は、A4で1枚に収めます。IPAの解説書が経営者層の対策に挙げているのは、個人アカウントでの業務利用の制限、規程違反時の対応の明確化、入力データを学習対象から除外する設定の徹底などです。これを現場の言葉にすると、次の5項目になります。
- 業務で使ってよいサービスと、ログインの方法
- 入れてはいけない情報(個人情報、取引先から預かった資料、未発表の製品情報、パスワード)
- 出力をそのまま社外に出す前に、人が確かめること
- 新しいサービスを使いたいときの申請先と、返事の期限
- 間違って入れてしまったときの連絡先と、違反したときの扱い
個人情報は法律の話にもなります。個人情報保護委員会の2023年6月の注意喚起は、個人データを含むプロンプトが応答の出力以外の目的で扱われる場合、法律に違反する可能性があるとし、機械学習に利用しないことなどの確認を求めています。
規程の全体を整える場合は、IPAの中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン第4.0版が土台になります。国の考え方を確かめたいときは、利用者の立場も書かれたAI事業者ガイドライン第1.2版を見てください。
許可を出す順番で失敗しないために
順番は、調査、道具の配布、ルールの周知、個人アカウントの制限、記録での確認です。制限を先にすると、仕事が止まった部署から不満が出て、私物のスマホへ移るだけで終わりかねません。
申請の窓口は、返事が遅いと使われなくなります。1週間以内に可否を返すと決めておくと、「聞くより黙って使う」動きを減らせます。判断の結果は一覧にして全社で見られるようにすると、同じ申請が重なりません。
配布から1か月後に、通信記録をもう一度見ます。許可していないサービス宛ての通信が残っていれば、個人を問う前に、なぜ会社の道具で足りないのかを部署に聞いてください。その答えが、次の見直しの材料になります。
製品を検討するのはどの段階か
目視で追えなくなったら、製品を比べる段階です。入れる製品は、困りごとで変わります。
- 利用中のクラウドサービスを洗い出し、制御したい:CASBの製品比較
- 社内外の端末のWebアクセスをまとめて制御したい:SWGの製品比較
- プロンプトへの機密情報の入力まで見たい:AIセキュリティ製品の比較
製品の種類と確認点は、AIセキュリティ企業を比べるときの見方にまとめました。AI全体の考え方はAIセキュリティの記事一覧から確かめられます。
IPAが2024年に公表した調査では、生成AIのセキュリティに関する規則を策定している企業は20%未満でした。少し古い数字ですが、1枚のルールを出すだけでも、会社として動いたことになります。次の朝礼で、調査の目的を伝えるところから始められます。