公表資料で確かめられるChatGPTの情報漏えいの事例は、原因が人の入力、サービス側の不具合、委託先への侵入の3つに分かれ、会社が取れる対策も違います。
今日やることは、下の表を見て、自社で同じことが起きる場所を1つずつ確かめることです。とくに、個人アカウントでの業務利用と、多要素認証の有無はすぐに確かめられます。
ネット上には多くの事例の紹介がありますが、この記事では公式発表か公的機関の資料で確かめられるものに絞りました。責任を問うためではなく、自社の点検に使うために読みます。
確かめられた事例を原因で分ける
| 時期 |
内容 |
原因 |
確かめた資料 |
| 2023年 |
社員が社内のソースコードを入力したと報告 |
人の入力 |
AIセーフティ・インスティテュートの資料 |
| 2023年3月 |
一部の加入者の支払い関連情報が見えた可能性 |
サービス側の不具合 |
OpenAIの発表 |
| 2025年11月公表 |
分析ツールの委託先から氏名、メールなどが流出 |
委託先への侵入 |
OpenAIの発表 |
「人か設定か」で分けるつもりで調べましたが、公式に確かめられた範囲では、会社の設定ミスが原因と言い切れる事例は見つかりませんでした。設定の問題は、次の節で入力の事例の中で触れます。
2023年の入力の事例:原因は人とルール
AIセーフティ・インスティテュートの2025年10月の調査報告書は、2023年に韓国サムスン電子の社員がChatGPTに社内機密のソースコードを入力した事例が報告された、と書いています。同社は生成AIの利用を原則禁止する新しい方針を作ったとされます。同報告書は報道を出典としていて、私たちは同社自身の発表を確認できていません。
同じ報告書は、当時のChatGPTが初期状態でチャットの記録を保存し、学習に使う仕様だったことも、リスクを高めた要因として挙げています。ここが「人」と「設定」の接点です。入力した人だけの話ではなく、初期設定を会社が把握していなかった、という読み方もできます。
ここから、中小企業が受け取れることは3つあります。
- 悪意がなくても起きる。AI事業者ガイドライン第1.2版の別添も、業務利用のためにソースコードを個人向けの生成AIへ入力してしまう事例に触れています
- ルールが先に要る。同じ別添は、ルールが未整備だと会社の管理の外で使われる恐れを挙げています
- 初期値を確かめる。学習への扱いはプランで違います。個人向けと法人向けの違いを確かめてください
製造業に置き換えると、ソフトウェア会社でなくても無関係ではありません。たとえば、設備の制御プログラムや、検査装置の設定ファイルの不具合を調べるために貼り付ける場面は考えられます。「コードは情シスの話」と思っていると、現場の設備担当がルールの対象から漏れます。
2023年3月の不具合:サービス側で起きたこと
OpenAIは2023年3月20日の障害の報告で、原因と影響を公表しました。
発表によると、原因はオープンソースのライブラリの不具合でした。特定の9時間の間に利用していたChatGPT Plus加入者の1.2%について、支払い関連の情報が意図せず見えた可能性があるとされています。対象は氏名、メールアドレス、請求先の住所、カードの種類、番号の下4桁、有効期限です。カード番号の全体は流出していないと説明しています。実際に別の人に見られた件数は極めて少ないとの見方も示しています。
この事例で、利用者の側にできた予防はほとんどありません。設定でも注意でも防げない事故があります。
だからこそ、入力する情報を絞る意味があります。万が一サービス側で事故が起きても、入れていない情報は影響を受けません。表の線引きはChatGPTに入れてよい情報の例にまとめました。
もう1つ、会社で使っているサービスについて、事故の公表をどこで確かめるかを決めておくと動きやすくなります。
2025年の委託先の事例:会話は対象外でも注意が要る
OpenAIは2025年11月26日の発表で、分析ツールの提供元Mixpanelの環境に攻撃者が入り、データが持ち出されたと公表しました。OpenAIのシステムへの侵入ではないと説明しています。
発表によると、関係するのは主にAPIの利用者で、後の12月19日の更新で、ヘルプへ問い合わせをした人など一部のChatGPT利用者も対象に含まれると修正されました。対象の情報は、アカウントの氏名、メールアドレス、ブラウザから分かるおおよその所在地、利用環境などです。チャットの内容、APIの利用データ、パスワード、APIキー、支払い情報は対象外とされています。
OpenAIはMixpanelの利用を停止しました。利用者に対しては、この情報を使った不審なメールへの注意と、多要素認証の設定を勧めています。
会社にとっての教訓は、会話の内容が守られていても、攻撃の材料は別の形で出るという点です。氏名とメールアドレスと「OpenAIを使っている」という事実があれば、それらしいメールを作れます。
委託先の事例で見直すこと
- ChatGPTのアカウントに多要素認証を設定しているか
- 業務で使うメールアドレスを、誰がどのサービスに登録したか分かるか
- 「OpenAIから」と名乗るメールを受けたときの確認先が決まっているか
これは、自社の委託先管理の話とも同じ形です。分析ツールやチャットのような周辺のサービスからも情報は流れます。
共有リンクの件はなぜ事例に入れないのか
2025年夏に、共有された会話が検索結果に出たとする報道がありました。ただ、今回の調査ではOpenAI自身の発表文を確かめられなかったため、事例の表には入れていません。
公式に確かめられるのは今の仕組みです。OpenAIのヘルプによると、共有リンクのページは検索に載せることを意図していませんが、それで非公開になるわけではなく、リンクを知っている人なら開けます。有効期限はありません。
原因が人の操作に寄る経路なので、社内で「共有リンクを使ってよいか」を決めておけば備えられます。
事例を社内の点検に変える
事例を社内で説明するときは、「怖い話」ではなく、点検の問いに変えます。
| 原因 |
自社への問い |
担当 |
| 人の入力 |
入れてはいけない情報を社員が言えるか |
総務 |
| 初期設定 |
学習の扱いを、全員のアカウントで把握しているか |
情シス担当 |
| サービス側の事故 |
入れた情報が見えても説明できる範囲か |
社長・総務 |
| 委託先への侵入 |
多要素認証と不審なメールの確認先があるか |
情シス担当 |
| 共有の操作 |
共有リンクの決まりがあるか |
情シス担当 |
答えられない問いがあれば、そこが今の弱い場所です。漏れる経路ごとの止め方は、生成AIの3つの漏えい経路で説明しています。カテゴリ全体はAIセキュリティのページにまとめています。
人の判断を支える手段は、教育と検知の2つに分かれます。繰り返し伝える仕組みにはセキュリティ教育サービスの比較、機密情報の外部送信を検知する仕組みにはDLP(情報漏えい防止)の製品比較があります。AIの利用に絞って見たいときはAIセキュリティ製品の比較も調べる先になります。
事例を読むときに気をつけること
事例の紹介記事を読むときは、次の3点を確かめると判断を誤りにくくなります。
1つ目は出どころです。元の発表にたどり着けるかを見ます。私たちも今回、紹介記事だけで元が確かめられないものは外しました。
2つ目は対象です。「ChatGPTで漏えい」と書かれていても、会話の内容なのか、アカウント情報なのかで意味が違います。2025年の事例は、会話の内容は対象外と発表されています。
3つ目は時期です。プランや設定は年々変わります。2023年の仕様をそのまま今の判断に使わず、今の公式ヘルプで確かめ直します。
社内の資料に使う場合も、発表のリンクを添えておくと、後から確かめ直せます。