シャドーAIとは、会社が許可や把握をしていないAIサービスを、社員が業務に使うことです。禁止しても仕事の必要が消えるわけではないので、使ってよい道具を会社が用意し、入れてよい情報を決め、利用状況を確かめるところまでをセットで進めます。
今日は3人だけでよいので、現場の社員に「仕事のどの作業にAIを使うと楽か、今どれか使っているか」を聞いてください。怒らないと先に伝えます。答えが、会社で用意する道具の条件になります。
なぜ禁止だけでは足りないのか
理由は、シャドーAIの多くが悪意からではなく、仕事を早く終わらせたいという動機から起きると考えられるためです。IPAの情報セキュリティ10大脅威 2026 解説書も、職場でAIサービスが用意されていない場合などに、従業員が個人で使っているAIサービスを業務に使うことがあると説明しています。
解説書が紹介する米国のAI企業の調査では、業務で生成AIにデータを貼り付けて入力する利用者が77%で、そのうち82%が組織に管理されていないアカウントでした。日本の中小企業の数字ではありませんが、個人アカウントの利用が珍しくないことは読み取れます。
IPAの対策一覧にも、未許可のAIサービスの禁止は入っています。私たちも、許可の無い利用を認めるべきとは考えていません。同じ一覧には「シャドーAI回避のため、AIサービス利用の検討」が並んでいます。禁止と、使える環境の用意は、両方そろって意味を持ちます。
禁止だけの会社で起こりやすいのは、次の流れです。
- 会社のパソコンでは使えないので、私用のスマホで開く
- 資料を写真に撮る、私用のメールへ送る、といった別の持ち出しが増える
- 問題が起きても「使ってはいけなかったから」と報告しにくくなる
最後の点が見落とされがちです。社員がChatGPTに個人情報を入力してしまったときは早い報告が頼りになりますが、禁止一辺倒の職場では、その報告が上がりにくくなるおそれがあります。
シャドーAIで問題になること
便利かどうかとは別に、会社として困る点は4つあります。
| 問題 |
例 |
確かめること |
| 情報の扱いが分からない |
図面を個人版AIへ入力 |
学習や保存の設定、規約 |
| 利用者の管理ができない |
退職後も履歴が個人の手元に残る |
アカウントの持ち主 |
| 法律や契約に触れる |
顧客名簿の入力、秘密保持の違反 |
利用目的、取引先との契約 |
| 記録が無く調べられない |
どの情報が入ったか不明 |
ログの有無 |
製造業でありがちなのは、たとえば次のような場面です。外国語の取引先へのメール作成、技術資料の翻訳、作業標準の書き直し、不良報告書の要約。どれも役に立つ使い方ですが、図面番号、取引先の単価、歩留まり、顧客から預かった仕様などが一緒に入りやすい作業でもあります。業務の効果と情報の重さが同時に大きいので、「全部禁止」も「全部自由」も現場に合いません。
進め方は5段階で足りる
1. 実態を責めずに集める
部署ごとに、使っているサービス、用途、入力している情報の種類を聞きます。この調査の回答を処分の材料にしないと先に宣言してください。そうしないと、実態ではなく建前が集まります。
人の申告だけでは漏れるので、機械の記録も見ます。IPAは、IT資産管理や通信ログ、CASBの活用でAIサービスの利用状況を把握する方法を挙げています。まず手元のファイアウォールやプロキシのログで主要なAIサービスへの通信を確かめ、足りなければCASBの製品比較を見ます。
2. 使ってよい道具を1つ決める
最初から3つも4つも認めると、管理が追いつきません。会社の仕事で最も多い用途を満たすものを、まず1つ決めます。
選ぶときは、機能より先にデータの扱いを公式の説明で確かめます。2026年11月時点で確かめた内容は次のとおりです。契約内容やプランで変わるので、導入前に必ず最新の条件を見てください。
すでにMicrosoft 365やGoogle Workspaceを契約している会社なら、まず今の契約で何が使えるかを確かめます。追加の契約や費用は、プランや時期で変わるため、ここでは書きません。
選定で見る点は次のとおりです。
- 入力したデータが学習に使われるか、設定で変えられるか
- 管理者がアカウントの追加や削除をできるか
- データの保存期間、ログ、共有リンクを管理できるか
- 現場の用途を満たすか。翻訳が要るのに翻訳が弱いと、個人版へ戻る
- 問題が起きたときの問い合わせ先があるか
最後に、会社の道具が不便だと結局シャドーAIに戻ります。導入後に現場へ感想を聞いてください。
3. 入れてよい情報を3段階にする
長い規程より、現場で迷わない表が役に立ちます。製造業なら、たとえば次の分け方です。
| 区分 |
例 |
扱い |
| そのまま入れてよい |
公開済みのカタログ、自社サイトの文章 |
会社の道具で可 |
| 加工すれば入れてよい |
社名や品番を消した文章 |
会社の道具で可 |
| 入れない |
顧客から預かった図面、個人情報、未発表の製品情報、認証情報 |
管理者の許可なしでは不可 |
取引先との秘密保持契約が絡むものは、会社の道具でも入れてよいとは限りません。契約に外部サービスの利用に関する定めがないかを、法務や顧問に確かめます。
個人情報については、個人情報保護委員会の注意喚起が、利用目的の範囲内かの確認と、提供事業者が機械学習に利用しないことなどの確認を求めています。
4. 個人アカウントの業務利用を制限する
使える道具を渡してから、個人アカウントの業務利用を制限します。順番を逆にすると、現場の仕事が止まります。IPAは、個人アカウントの業務利用の制限、規程違反時の対応の明確化、入力データを学習対象から除外する設定の徹底を挙げています。
規程の土台には、IPAの中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン第4.0版に付属する情報セキュリティ関連規程のサンプルが使えます。AI固有の点検項目は、総務省と経済産業省のAI事業者ガイドライン第1.2版のチェックリストが参考になります。
人数が増えて目視で追えなくなったら、機密情報の外部送信を見張るDLPの製品比較や、AIの利用を管理するAIセキュリティ製品の比較を検討します。製品の入れ方を考えるのは、道具と入力ルールが決まってからで構いません。何を止めたいのかが決まらないと、設定もできないからです。
5. 新しいAIを申請できる窓口を作る
AIの機能は、既存のソフトにも次々に入ってきます。一度決めて終わりにすると、また会社の知らない利用が増えます。
現場から「このAIを使いたい」と言える窓口を、総務か情シス兼任の担当に1つ置きます。申請に必要な内容は、サービス名、用途、入れる情報の3つで足ります。データの扱いを確かめ、短い期間で可否を返してください。返事が遅い窓口は使われなくなります。
あわせて、半年に1回程度、利用状況と規約の変更を確かめる日を決めておきます。IPAもAIの分野は数か月で状況が変わる可能性に触れています。
社員への伝え方を変える
伝えるときは「AIは危ないから使うな」ではなく、「この道具を、この範囲で使ってほしい」と話します。伝える内容は次の4つです。
- 会社が用意した道具と、ログインの方法
- 入れてはいけない情報の具体例
- AIの答えは、元の資料で確かめること
- 間違えて入れたら、責める前にまず連絡を受けること
研修を外部に頼むなら、セキュリティ意識向上サービスの比較が使えます。自社の資料だけで短く伝える方法でも始められます。
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