生成AIから情報が漏れる可能性はありますが、経路は「学習への利用」「履歴と共有」「連携アプリ」の3つに分かれ、それぞれ止め方が違います。
今日やることは、社内で使っている生成AIを、サービス名とアカウントの種類ごとに書き出すことです。会社で契約したものか、社員が個人で登録したものか。そこが分かると、3つの経路のどこが開いているかを確かめられます。
なぜ「漏れる・漏れない」で議論がかみ合わないのか
議論がかみ合わないのは、違う経路の話をしているからです。「学習をオフにしたから安全」と言う人は1つ目の経路を、「共有リンクが怖い」と言う人は2つ目の経路を見ています。
IPAの情報セキュリティ10大脅威 2026は、組織向けの3位に「AIの利用をめぐるサイバーリスク」を初めて選びました。挙げられた問題の1つが、AIへの理解が不十分なために起きる意図しない情報漏えいです。
総務省と経済産業省のAI事業者ガイドライン第1.2版の別添は、もう少し具体的です。機密情報がプロンプトとして入力され、出力などを通じて流出するリスクを挙げています。社内ルールが未整備だと、会社の管理の外で従業員が個人向けの生成AIを使う恐れがあるとも書いています。外部のサービスやデータと連携するときの注意にも触れています。
つまり、公的な資料も入力、管理の外での利用、連携を分けて見ています。以下ではChatGPTを例に、公式情報で確かめられる範囲で3つの経路を説明します。ほかの生成AIでも、同じ3つの問いを提供元の資料に当てて確かめられます。
3つの経路と止め方
- 学習への利用:プランと設定で止める
- 履歴と共有:共有リンクの決まりと、アカウントの守りで止める
- 連携アプリ:つなぐ先と権限を、承認制で絞る
経路1 入力した内容は学習に使われるのか?
使われるかどうかは、プランと設定で変わります。OpenAIのヘルプによると、個人向けのFree、Plus、Proは初期状態でデータ共有がオンです。ChatGPT Business、Enterprise、Edu などの法人向けは、初期状態で学習に使われません。
個人向けでは、設定の「データコントロール」でモデル改善の項目をオフにできます。ただし個人プランでは、回答に評価(高評価・低評価)を送ると、学習を止めていても、その会話全体が改善に使われる場合があるとヘルプに書かれています。
会社の視点で見ると、この経路の弱点は設定が社員任せになることです。全員がオフにしたかを、会社は確かめられません。設定の詳しい手順と法人プランの違いは、ChatGPTの学習オフと法人プランの整理にまとめました。
個人情報の場合は、社内の都合だけでは決められません。個人情報保護委員会の注意喚起(2023年6月)は、事業者が本人の同意なく個人データを入力し、それが応答の出力以外の目的で扱われると、法律に違反する可能性があるとしています。そのため、提供事業者が機械学習に使わないことなどを十分に確認するよう求めています。
経路2 履歴と共有リンクからはどう漏れるのか?
学習を止めても、会話は履歴としてサービス側に残ります。この経路で気をつける点は2つです。
共有リンクは「知っている人なら見られる」
OpenAIの共有のヘルプによると、個人アカウントの共有リンクは、リンクを知っている人なら誰でも見られます。相手ごとの閲覧制限や、有効期限は設定できません。受け取った人は転送もできます。検索エンジンに載せる目的のページではないものの、それで非公開になるわけではない、という説明です。
取り消すときは、設定の「データコントロール」にある共有リンクの管理画面から消します。消してもリンク先が見えなくなるだけで、元の会話は残ります。相手が保存した分までは消えません。
アカウントが乗っ取られれば、履歴も見られる
履歴はログインできる人なら読めます。これは学習の設定とは関係がありません。社員が個人アカウントを使っていると、パスワードの使い回しや多要素認証の有無を会社は管理できません。
法人プランなら、社内のログイン基盤とつなぐ方法があります。ChatGPT Businessのヘルプでは、SSO(1つのIDで複数のサービスに入る仕組み)とドメイン確認がプランに含まれるとされています。ログインを1か所で管理したい場合は、IDaaS(ID管理サービス)の製品比較が判断材料になります。
保存の期間も確認しておきたい点です。一時チャットは学習に使われませんが、安全のために最長30日コピーが保管される場合があります。「履歴に出ない」と「どこにも残らない」は別物です。
経路3 連携アプリからはどう漏れるのか?
連携アプリの経路は、入力した内容ではなく、AIから読める範囲が広がることで起きます。社員が何も貼り付けなくても、つないだ先の情報が会話に使われます。
OpenAIのヘルプによると、アプリは接続先のサービスの情報を読み、操作もできます。読める範囲は、アプリの種類、接続時に与えた権限、ワークスペースの設定で決まります。初期の権限設定では、読み取りは自動で行われ、外部に影響する操作の前に確認が入ります。
もう1つの面は、連携先が破られたときの影響です。これはChatGPTの話ではありませんが、形が近い例があります。Googleの脅威分析チームの報告によると、2025年8月、チャットや営業支援のサービスであるSalesloft Driftの連携用トークンが悪用され、多数の組織のSalesforceからデータが持ち出されました。Salesforceの発表は、原因はアプリの接続情報が破られたことで、Salesforce本体の欠陥ではないと説明しています。
自社の設定に誤りがなくても、与えた権限の範囲で影響を受ける。連携を増やすときは、この前提で範囲を決めます。
製造業の場合、どの経路から見直すか
たとえば、品質保証の担当者が取引先向けの不具合報告書をChatGPTで英訳する場面を考えます。報告書には、取引先の社名、品番、図面の寸法、不良の発生数が入っています。
経路1では、担当者のアカウントが個人向けか法人向けか、学習の設定はどうかが問われます。経路2では、できた英訳を同僚へ共有リンクで渡していないか、が問われます。経路3では、社内のファイル置き場を連携していて、図面のフォルダまで読める状態になっていないか、が問われます。
同じ1つの作業でも、確認する場所は3か所に分かれます。加えて取引先の情報なら、秘密保持契約の定めも確認が要ります。入力してよい情報の線引きは、ChatGPTに入れてよい情報の表を土台にできます。
社内ルールには何を書くか
経路ごとに1つずつ決めると、A4で1枚に収まります。長い規程を作るより、現場が覚えられる形を優先します。
| 経路 |
ルールに書くこと |
決める人 |
| 学習への利用 |
使ってよいサービスとプラン、個人アカウントの扱い |
社長・総務 |
| 履歴と共有 |
共有リンクの可否、多要素認証の必須化 |
情シス担当 |
| 連携アプリ |
つないでよいアプリ、申請先、権限の見直し時期 |
情シス担当 |
| 共通 |
入力禁止の情報、誤入力時の連絡先 |
総務 |
全面禁止は1つの選択ですが、仕事で役に立つ道具だと、個人のスマートフォンで使われて会社から見えなくなるおそれがあります。前述の別添も、ビジネス利用を想定したサービスを使う考え方に触れています。
誤って入力した場合の連絡先も、最初のルールに入れておきます。「怒られるから黙っておこう」となると、共有リンクの削除も、取引先への連絡判断も遅れます。報告した人を責めないと書いておくだけでも、動きが変わります。
ルールの外をどう補うか
ルールは守られない日があります。そこを補う製品は種類が分かれ、見ている場所が違います。
- AIへの入出力を見る:AIセキュリティ製品の比較
- 機密情報の外部送信を見る:DLP(情報漏えい防止)の製品比較
- どのクラウドサービスが使われているかを見る:CASBの製品比較
入れる順番は、利用状況を把握してからで構いません。どのAIが誰に使われているかが分からないまま製品を選ぶと、守る対象を決められないからです。AIセキュリティの全体像も合わせて見ると、社内の順番を決めやすくなります。
実際に公表された事例を見て社内で説明したいときは、公式発表で確かめたChatGPTの事例を使ってください。原因が人か、設定か、サービス側かで分けています。
書き出した一覧に個人アカウントが1つでもあれば、そこが最初に見直す場所です。