ネットワーク監視ツールは、無料か有料かより、誰が構築し、誰が通知を受け、更新を誰が続けるかで選びます。ネットワーク監視ツールとは、スイッチやルーター、サーバーなどの状態を定期的に確かめ、異常があれば担当者に知らせる道具のことです。
今日やることは2つです。止まると困る機器を紙に書き出し、夜中に通知が鳴ったときに誰が出るのかを決めてください。機器の数と受ける人が分かれば、無料で足りるかどうかの見当がつきます。
「ネットワーク監視」には2つの意味がある
製品を比べる前に、何を見たいのかを分けます。同じ言葉で別の道具を指していることが多いからです。
| 見たいこと |
道具の例 |
答えてくれる問い |
| 機器の稼働 |
Zabbix、Nagios Core、PRTG |
機器は動いているか。回線は混んでいないか |
| 通信の異常 |
UTMの監視、NDR |
外から不審な接続はないか。社内から不正な通信はないか |
| 端末の異常 |
EDR |
パソコンやサーバーで不審な動きはないか |
この記事で主に扱うのは、1行目の稼働監視です。稼働監視で機器が正常と表示されていても、攻撃を受けていないという意味にはなりません。
警察庁の令和8年上半期の報告は、ランサムウェアの被害報告が123件で、半期として最多だったとしています。被害組織へのアンケートでは、侵入経路はVPN機器が約5割です。VPN機器が正常に動いたまま侵入される場面は、稼働の監視だけでは見分けられません。
社内の通信の異常まで見たいなら、NDRの製品比較で検知の仕方と止め方を確かめます。IPAの情報セキュリティ10大脅威2026でも、組織向けの1位はランサム攻撃、4位はシステムの脆弱性を悪用した攻撃です。稼働監視とは別に、攻撃への備えを考える理由がここにあります。
無料と有料は何が違うのか?
公式サイトで確かめられる範囲を並べます。価格は2026年11月に確認したもので、変わることがあります。
| 製品 |
費用の形 |
公式に書かれていること |
運用で気にかける点 |
| Zabbix |
ソフトはオープンソース(AGPLv3) |
商用利用では技術サポートの購入で開発を支えてほしいとしている |
サーバーの用意と更新は自前 |
| Nagios Core |
ライセンス費用なし(GPL v2) |
Linuxに入れ、プラグインで広げる |
プラグインと設定の管理が要る |
| PRTG |
無料版と年払いの契約 |
無料版は100センサーで機器約10台。PRTG 500は月200ドル相当で機器約50台 |
センサーの数で費用が変わる |
Zabbixの有料サポートも、公式の料金表に載っています。最も下のSilverは年払いで月325ドル相当で、窓口は8x5(1日8時間、週5日)、応答は1日以内です。ソフトが無料でも、困ったときの窓口まで欲しければ費用が発生します。
PRTGの契約には、最新版の提供とメールのサポートが含まれると書かれています。PRTG 500を年で見れば2,400ドル相当です。「無料か2,400ドルか」ではなく、担当者の時間をどちらに使うかの比較になります。
担当者の手間はどこで変わるのか
次の表は、公式情報をもとに私たちが整理した目安です。会社の環境によって変わります。
| 作業 |
無料のソフトを自前で |
有料製品を自前で |
監視を外注 |
| 構築 |
サーバーの用意から自社 |
導入の案内あり |
委託先と決める |
| 更新 |
自社で計画して実施 |
自社で実施 |
契約の範囲を確認 |
| 困ったとき |
社内かコミュニティ、または有償契約 |
製品の窓口 |
委託先の窓口 |
| 通知の一次対応 |
自社 |
自社 |
委託先と分担 |
更新の計画は、無料で続ける場合に見落としやすい作業です。Zabbixのサポート方針では、標準版は6か月ごとに出て12か月のサポート、LTS版は1年半ごとに出て5年のサポートです。兼任の担当者が回すなら、LTS版を選び、サポートが切れる年を台帳に書いておきます。
通知の仕組みはどこを見るべきか?
監視ツールの価値は、画面より通知で決まります。比べるのは次の3つです。
1つ目は、届く手段です。Zabbixの通知手段は、メール、プッシュ通知、SMS、独自のスクリプト、Webhookです。PRTGの説明には、メールやSMS、スマートフォンのアプリ、TeamsやSlackが挙がっています。社内のメールサーバーが止まると、メールだけの通知は届かないおそれがあるので、経路を2つ持たせます。
2つ目は、対応されないときの動きです。Zabbixには通知の段階を上げる機能があり、解決するまで繰り返す、遅らせる、上の担当へ回す、といった設定ができます。担当者が1人しかいない会社ほど、この設定が効きます。たとえば、30分反応がなければ工場長にも届く、という形です。
3つ目は、夜に鳴らさない設定です。PRTGの説明にも、優先度の低い通知を夜間に送らない例があります。全部の通知を鳴らすと、担当者は通知を見なくなります。夜に鳴らすのは、生産や出荷が止まるものだけにします。
製造業の工場ではどう考えるか?
たとえば、金属加工の工場で、事務所のサーバーと現場の生産管理端末がスイッチでつながっている場合です。夜勤の最中にスイッチが止まると、端末が使えないことに現場が先に気づき、原因が分からないまま朝を待つことになります。
このとき監視する候補は、基幹のスイッチ、ルーター、サーバー、無停電電源装置です。ZabbixのSNMPの説明にも、OSや専用ソフトを入れにくいプリンター、スイッチ、ルーター、UPSはSNMPで見る、とあります。買う前に、これらの機器がSNMPに対応しているか、設定を誰が変えられるかを保守会社に確かめます。
現場の製造設備まで同じ道具でつなぐかどうかは、別に考えます。設備の保守契約や、メーカーの指定に触れることがあるためです。最初の監視の対象は、事務所側のネットワーク機器までにとどめ、設備側はメーカーと相談しながら広げる順番のほうが、止めてしまう心配が少なくなります。
選ぶ順番はどうするか?
価格表を見るのは最後で足ります。次の順に決めます。
- 止まると困る機器を書き出す。台数が約10台に収まるなら無料版の範囲も比べられます
- Linuxのサーバーを更新し続ける人がいるかを確かめる。いなければ、無料の自前運用は外します
- 通知を受ける人と、不在時の代わりを決める
- 夜間に動けないなら、外注の範囲を見積もる
- 機器の情報を一覧にする。台帳が古いと、監視の抜けに気づけません
5番の台帳は、VPN機器の版の確認にも使います。パソコンまで含めて管理するならIT資産管理ツールの比較を見ます。Zabbixにも機器を自動で見つける機能がありますが、見つけた機器をどう扱うかを決めるのは人の仕事です。
監視ツールを入れても残る仕事
監視ツールは知らせるまでが仕事です。通知を受けて機器を止めるか、取引先に連絡するかは人が決めます。攻撃が疑われるときの動きは、社内に配れるインシデント対応フローに書いておきます。
ログの監視まで同じ道具でやるのか?
稼働監視の道具でログまで見たくなることがあります。Zabbixにはその機能があり、無料で始められます。ただし、調査に使うログの保管は別の話です。どこまで任せられるかはZabbixのログ監視でできる範囲と限界で分けました。ログを長く保管して検索したい場合は、統合ログ管理ツールの比較で保存期間と検索のしやすさを見ます。
監視を社内の誰が見るかで迷うなら、役割の分け方から決めます。セキュリティ人材を採用せずに回す組み立てに、社内に残す判断と外へ出す作業を整理しました。そのほかの運用の話はセキュリティの運用と体制にまとめています。
無料のツールが悪いわけでも、有料なら安心というわけでもありません。入れたあと1年間、誰がどの作業をするのかを書き出し、その時間と価格を並べて決めるのが確実です。