個人情報漏えいの原因で最も多いのは書類の誤交付で、次が誤送付です。個人情報保護委員会の令和7年度年次報告の付表を足し上げると、委員会への直接報告13,345件のうち、この2つで約74%を占めます。
今日やることは、自社で個人情報を社外へ渡す場面を紙に書き出すことです。給与明細の配布、健康診断の結果の受け渡し、請求書の封入、応募者へのメール、顧客リストの送付などです。場面ごとに、渡す前に誰が何を確かめているかを横に書くと、手当ての抜けが見えます。
公的な統計で見ると、原因の内訳は?
年次報告の付表は、原因を漏えい等の発生元(報告者、委託先、不明)ごとに載せています。これを原因ごとに足した結果が次の表です。合計と割合は私たちが計算しました。
| 原因 |
件数 |
割合 |
| 誤交付 |
6,443件 |
48.3% |
| 誤送付 |
3,467件 |
26.0% |
| 不正アクセス |
1,256件 |
9.4% |
| 紛失 |
764件 |
5.7% |
| 内部不正 |
86件 |
0.6% |
| 誤廃棄 |
85件 |
0.6% |
| 盗難 |
66件 |
0.5% |
| その他 |
1,178件 |
8.8% |
対象は令和7年4月1日から令和8年3月31日までです。委任先の省庁を通した報告は含まないので、民間事業者の処理件数の総数である17,139件とは数が合いません。
数字を読むときに、3つの点を分けて考えます。
1つ目は業種の偏りです。年次報告は、病院や薬局での書類の誤交付と、クレジットカードなどの誤送付が多いと説明しています。漏えいした情報の形態も、紙媒体のみが76.9%です。製造業の内訳が同じになるとは限りません。
2つ目は、件数と人数の違いです。1件あたりの人数は1,000人以下が93.6%で、小さな事案が件数を押し上げています。委員会の不正アクセスの傾向の資料によると、令和8年4月1日から10月16日までの不正アクセスで漏えい等した本人は、延べ約2億6,000万人です。速報時点の数字で、後に変わる可能性があると注記されています。件数が少ないから軽いとは言えません。
3つ目は、最新の動きです。令和8年度第1四半期の処理状況では総計6,101件で、前年度の四半期換算の4,854件より増えました。病院や薬局に限らず、損害保険業者の誤交付も目立つとされています。
原因ごとに、社内で先に打つ手は?
原因によって効く手が違います。次の表は、統計の原因と手当てを私たちが対応させたものです。
| 原因 |
先に打つ手 |
足りないときに検討する道具 |
| 誤交付 |
渡す前に本人と書類を2点で照合する |
帳票の出力を本人別に分ける仕組み |
| 誤送付 |
宛先と添付を確かめる人と手順を決める |
メール誤送信対策 |
| 不正アクセス |
機器の更新、パスワード、公開設定を見直す |
多要素認証、脆弱性の管理 |
| 紛失・盗難 |
持ち出しの記録とPCの暗号化 |
ディスク暗号化、デバイス制御 |
| 内部不正 |
権限を絞り、退職者のIDを止める |
操作ログ、DLP |
上から順に全部をやる必要はありません。自社で外へ渡す場面が多い原因から手を付けます。
誤交付と誤送付は、どこから手を付ける?
紙の書類が多い会社は、封入と手渡しの場面から直します。人の注意力に頼るほど、忙しい時期に抜けます。社員番号と氏名の2点で照合する、1人分ずつ封をする、作業を分けて別の人が確かめる、といった手順にします。
メールは、社外へ個人情報を送る場面を絞ります。一斉送信で宛先を見せてしまう、別の顧客のファイルを添付する、といった失敗は、送信前の確認の手順で減らせます。人の確認で足りない部分は、メール誤送信防止ツールの比較で一時保留や上長の承認の機能を見比べます。
注意を促すだけの教育で終わらせないことも大切です。手順を決めたうえで、なぜその確認が必要かを実際の場面で伝えます。全社の教育を仕組みにするなら、セキュリティ教育の製品比較で受講の管理まで見られます。
不正アクセスは、何を見直せばいい?
年次報告は、不正アクセスの指導で多くみられた不備を3つ挙げています。
- VPN機器やECサイトのアプリケーションの脆弱性が公開され、対応方法も出ていたのに放置していた
- IDとパスワードが推測されやすいものだった
- 設定ミスで、データベースへのアクセス制御が不適切だった
高度な攻撃への備えより先に、この3つを確かめます。インターネットにつながる機器と公開サイトの一覧を作り、更新の担当者を決めます。パスワードだけで入れる社外向けの入口には、多要素認証を入れます。クラウドのサービスが増えて入口の管理が難しいなら、IDaaSの比較の見方が参考になります。
IPAの情報セキュリティ10大脅威2026でも、組織向けの4位に「システムの脆弱性を悪用した攻撃」が入っています。更新を担当者の善意に任せず、月に1回など日を決めて確かめます。
付表では、発生元が不明の報告が1,013件あり、そのうち395件が不正アクセスです。どこから漏れたかを後から説明するには記録が要るので、機器とサーバーのログの保存先と期間も決めておきます。
紛失と内部不正は、どう分けて考える?
紛失は、起きたあとに中身を読まれない状態にしておく手が効きます。個人情報保護委員会のガイドライン(通則編)は、機器や電子媒体を持ち運ぶ場合に、容易に個人データが判明しないよう措置する例を挙げています。ノートPCについては、BitLockerとEFSの使い分けで整理しました。
内部不正は、統計では0.6%ですが、IPAの10大脅威2026では組織向けの7位です。IPAの解説書は、アクセス権を必要最小限にすること、異動や離職で不要になったIDを直ちに削除することなどを挙げています。道具を入れる前に、この2つを確かめます。道具の違いは情報漏えい対策ツールの種類と順番にまとめています。USBやメールでの持ち出しを止める機能を見るなら、DLP製品の比較が入口になります。
委託先で起きた漏えいは、どう備える?
付表では、発生元が委託先の報告は1,292件で、直接報告の9.7%です。誤送付506件と不正アクセス328件が目立ちます。自社で手当てをしていても、発送や給与計算を外へ出していれば、そこが漏えいの場所になります。
第1四半期の処理状況の注記によると、取扱いを委託している場合は、原則として委託元と委託先の双方に報告の義務があります。委託先の事故は、自社の報告の話にもなります。
委託先の一覧を作り、どの個人データをどの会社に渡しているかを書きます。そのうえで、事故が起きたときの連絡の期限と窓口を契約で確かめます。
製造業なら、どの場面から見る?
製造業は、顧客の個人情報が多くない会社でも、社員の情報は必ず持っています。たとえば、工場の総務が健康診断の結果を配る場面、期間従業員の採用で履歴書を受け取る場面、部品の案内を代理店の担当者リストへ一斉に送る場面です。
健康診断の結果は、ガイドライン(通則編)で要配慮個人情報の例に挙げられています。要配慮個人情報を含む漏えいは報告の対象となる事態の1つで、年次報告でも報告の類型の61.9%を占めます。件数の統計が医療に偏っていても、社内の健康情報の扱いは他人事ではありません。
手当ては、どう記録しておく?
年次報告によると、委員会は報告を受けて、発生原因を特定して分析しているか、再発防止策が原因に適切に対応しているかなどを確かめています。「注意を徹底する」だけでは、原因に対応した策とは言いにくくなります。
この記事の表をもとに、自社の場面、想定する原因、決めた手当て、担当者を1枚にまとめます。事故が起きたときの動きは別の文書に分けて、発見者から責任者への連絡先まで決めておきます。情報漏えい対策のカテゴリに、報告の義務や対応の手順の記事をまとめています。