個人情報漏えいのお詫びは、公表された例では500円の金券が多く見られます。JNSAのインシデント損害額調査レポート 第2版(2024年)も、プリペイドカードで券面500円とすることが多いと説明しています。ただし、法律で決まった金額はありません。
今日やることは、自社で漏えいが起きたと仮定し、本人が何人いるかを数えることです。顧客、採用応募者、従業員、取引先の担当者に分けて数えると、このあとの費用の計算ができます。
公表された例では、いくらのお詫びが多い?
金券を送ると公表した例です。古いものも含むので、年を確かめて読んでください。
これは「公表された中で確かめられた例」です。業界全体の平均ではありません。公表しない会社や、金券を送らない会社の例はこの表に入っていません。2025年の駿河屋の発表のように、専用の窓口の案内を先に出す例もあります。
金券が決まりではないことは、法令からもわかります。施行規則10条が本人への通知に求めているのは、概要、項目、原因、二次被害、その他の参考事項で、金券は入っていません。
1人あたりの費用はいくら?
500円の券面でも、会社の負担は500円では済みません。JNSAのレポートの例では、額面500円のカードの購入費が1枚530円で、印刷と送料を入れて1人650円程度です。1万人に送ると650万円です。
人数ごとに、この単価でかけ算すると次のようになります。計算は私たちが行ったもので、印刷部数によって単価は変わります。
| 本人の数 |
500円の金券の総額(1人650円で計算) |
| 300人 |
約19.5万円 |
| 1,000人 |
約65万円 |
| 3,000人 |
約195万円 |
| 1万人 |
約650万円 |
二重に数えないよう注意します。650円には印刷と送料が入っているので、お詫び文に金券を同封するなら、別に郵送費を足す必要はありません。金券を送らずにお詫び文だけを郵送する場合は、JNSAのレポートの例で1通130円前後です。3,000人なら約39万円で、金券を同封する場合との差は約156万円です(計算は私たちによるものです)。
メールで通知する方法もあります。委員会のリーフレットは、文書の郵送とメールの送信を通知の例に挙げています。ただ、メールアドレスが漏えいした事故では、なりすましのメールと区別がつきにくくなります。本人への案内の中に、自社サイトのお知らせページの場所を書いて、そこで確かめられるようにします。
金券より大きい費用は何か?
お詫びの金券は、事故の費用の一部です。JNSAのレポートが中小企業の損害額のイメージとして示す参考値は、次のとおりです。
| 費用 |
目安(2024年の参考値) |
| 原因と被害範囲の調査 |
PC・サーバー数台で300万〜400万円 |
| コンサルティング |
10万〜100万円 |
| 法律相談 |
30万〜100万円 |
| お詫び文の郵送(DM) |
1万人で約130万円 |
| 新聞へのお詫び広告 |
地方紙で約50万円、全国紙で240万円前後 |
| 問い合わせ窓口(コールセンター) |
3か月で700万〜1,000万円 |
| 金券の送付 |
1万人で650万円 |
調査は台数が増えると変わります。同じレポートは、大規模な被害では数千万円以上に及ぶ場合があるとしています。窓口の金額は、初月3席、以降1席で3か月という前提です。
全体の金額の例もあります。JNSAの別紙2025年版を報じた記事によると、ウェブサイトからの情報漏えいの被害金額は、個人情報のみの場合で平均2,407万円、中央値1,165万円でした。カード情報が含まれる場合は平均3,608万円、中央値1,690万円です。回答した組織のアンケートの数字で、すべての事故の平均ではありません。
公表された例では、2021年のある会社の開示があります。子会社の通販サイトでカード情報4,509件の漏えいの可能性があり、調査、再発防止、補償、対応の費用として2,819万円余りの特別損失を見込みました。金額は事案によって違います。
金券と賠償は何が違う?
別のものとして考えます。JNSAのレポートは、見舞金や見舞品を「損害賠償金とは別」のお詫びの一環と説明しています。
裁判になった場合の金額は、次のように報じられています(弁護士の解説を紹介する記事)。
| 判決 |
1人あたりの金額 |
| ベネッセコーポレーション事件(2018年、東京地裁) |
3,300円 |
| Yahoo!BB顧客情報漏えい事件(2007年、大阪高裁) |
5,500円 |
| TBC顧客アンケート漏えい事件(2007年、東京地裁) |
3万5,000円(二次被害がない人は2万2,000円) |
この解説では、一般的な連絡先情報で二次被害がない場合、慰謝料はおおむね3,000〜5,000円が相場とされています。これは金券の相場ではありません。金券の額を決めるときに、賠償の話と混ぜないようにします。
お詫びの金額をどう判断する?
順番は、金額より先に、本人が困らないようにすることです。JNSAのレポートが紹介する調査では、お詫びで重視することは「迅速な対応」が88.0%、「謝罪の対応」が65.5%、「再発防止への意欲」が63.5%で、「賠償の金額」は37.5%でした。
同じ調査では、実際に受け取った金額の500円に対し、許せる金額は5,000円という結果も出ています。調査の実施元はプリペイドカードの会社なので、その点も踏まえて読みます。
送らないという判断もあり得ます。その場合も、通知の中身が薄いと不満が残りやすくなります。JNSAのレポートは、過去にお詫びの対応の不備も重なって集団訴訟が起きた例があることに触れています。送るかどうかより、説明が足りているかを先に見直します。
判断は次の順で進めます。
- 通知と報告の準備を先に進める(報告義務の4つの場合と期限)
- 問い合わせの窓口を作る。金券より先に本人が使うものです
- 漏れた情報の種類と二次被害の有無を確かめる
- 本人との関係を見る(顧客、採用応募者、従業員、取引先の担当者)
- 金券を送るかどうかと金額を、弁護士に相談して決める
金額を上げるより、調査の結果と、本人がとれる対策を早く伝えるほうを優先します。金券を送るなら、対象者を確定してから発送します。途中で対象が増えると、追加の発送が要ります。
製造業では、個人の客がいない会社もあります。たとえば、部品メーカーで採用サイトから応募者の情報が漏れた場合です。応募者には住所や学歴が含まれることがあるので、金券の有無より、何が漏れ、何に注意すればよいのかを個別に伝えることが中心になります。
取引先の担当者の名刺情報が漏れた場合は、担当者への連絡に加えて、取引先の会社への説明も要ります。金券で済む話ではなく、再発防止の説明を求められることがあります。
費用にはどう備える?
事故の前にできることは3つあります。
- 費用の補償を確かめる:見舞品や窓口の費用が対象かは、契約ごとに違います。サイバー保険の比較で確認する項目を見てから、約款を読みます
- 調査の依頼先を決めておく:インシデント対応・フォレンジックの比較で、初動の費用と体制を見比べます
- 漏れる量を減らす:人数が減れば、郵送や金券の費用は下がります。DLPの製品比較や、古い名簿の削除が手段です
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