メールセキュリティとは、会社のメールを、届く攻撃、送るときの誤り、自社名のなりすましの3方向から守る取り組みです。
今日やることは、下の3つの質問に社内で答えることです。答えに詰まった所が、足りない所です。
- 取引先から「振込先が変わった」とメールが来たら、誰がどの方法で確かめますか
- 図面や見積書を社外へ送る方法は、会社で決まっていますか
- 自社名をかたるメールが送られても受信側で見分けられるよう、SPF、DKIM、DMARCを設定していますか
なぜ3方向に分けて考える?
メール対策と聞くと、迷惑メールを止める製品を思い浮かべがちです。ただ、その製品が見ているのは主に、外から届くメールです。誤った宛先へ自社の社員が送るメールや、他人が自社名で第三者へ送るメールは、別の仕組みで考えます。
| 方向 |
起きること |
主な守り方 |
| 受信 |
偽のメールで、だまされる、感染する |
検知の製品、多要素認証、送金の決まり、報告の手順 |
| 送信 |
宛先を誤る、情報を外へ出す |
送信前の確認、ファイルの渡し方の決まり |
| なりすまし |
自社名で取引先や顧客に偽のメールが届く |
SPF、DKIM、DMARC |
3方向は担当も違います。受信の製品は情シス、送金の決まりは経理、ファイルの渡し方は現場、DMARCはドメインの管理者が関わります。だから「メールは対策済み」と一言でまとめると、抜けが見えません。
受信:何が届いて、何を決めておく?
受信で多いのは、偽サイトへ誘導するフィッシング、送金をだますビジネスメール詐欺、特定の組織を狙う標的型攻撃メールです。IPAの解説(2026年8月)は、これらの手口と被害を中小企業の担当者向けにまとめています。
規模感は、警察庁の2026年上半期の資料から分かります。フィッシングの報告は、フィッシング対策協議会によれば約73万件でした。同じ資料は、AI技術の発達で文章が自然になり、見抜きにくいものが増えていると説明しています。
社長の名をかたる「ニセ社長詐欺」も同じ資料に載っています。2026年1〜6月の認知件数は127件、被害額は約38億8,000万円で、既遂1件あたり約3,100万円でした。SNSのグループへ誘導し、法人口座の残高を聞き出してから送金させる流れです。
金額が大きいので製品の話になりがちですが、この手口に効くのは社内の決まりです。IPAの解説が事前の対策の最初に挙げているのは、送金の承認ルールでした。
受信で決めておくこと
- 送金の承認ルール。振込先の変更はメール以外で確かめる
- メールなど外から入れるサービスの多要素認証
- 不審なメールの報告先と、報告する項目
- 検知の製品。メールサービスの標準機能で足りるかを先に確かめる
製品は、今使っているメールサービスの機能を確かめてから足りない所を選びます。IPAは検知の手段として、ウイルス対策ソフト、UTM、メールサービスのフィッシング・迷惑メール対策を挙げています。追加を考える段階では、メールセキュリティ製品の比較で、対応している機能と運用の負担を見比べられます。
どの製品でも、すり抜けはあります。IPAも、受信ボックスに届いた攻撃メールを社員が報告することを、検知の一環と位置づけています。報告の流れは開いてしまった社員を責めない社内の動きに分けました。
製造業なら、受信でどこを見る?
海外や遠方の仕入先と、メールで請求や振込先をやり取りしている会社は、経理の流れを先に見ます。
総務省の被害事例には、海外から部品を仕入れる会社の話が載っています。取引先に似せたアドレスから振込先変更の連絡が届き、その月から変更後の口座へ振り込んだものの、翌月に取引先からの督促で偽物と分かりました。資金はすでに引き出されていたという内容です。
この事例の予防法は、前任の担当者への確認、電話などメール以外の手段での確認、チェックシート化、複数名でのチェックです。どれも製品がなくても始められます。
たとえば、月末に仕入先へ送金する部品メーカーの場合、「振込先の変更は、登録済みの電話番号へかけ直して確かめ、2人で確認してから口座を変える」と1行決めるだけで、経理の動きが変わります。電話番号はメールに書かれたものを使わないところが要点です。
送信:誤りはどこで防ぐ?
送信の問題は、攻撃がなくても起こります。IPAの中小企業向けガイドライン第4.0版の自社診断には、「電子メールやFAXの宛先の送信ミスを防ぐ取り組み」と「重要情報の受け渡しを暗号化など安全な手段で行っているか」が項目として入っています。
パスワード付きZIPを送り、別のメールでパスワードを送る方法は、宛先の誤りには強くありません。総務省の事例は、2通とも同じ誤った宛先へ送ってしまうケースが多いため、本質的に有効とは言えないと説明しています。やめ方と取引先への伝え方は、PPAPをやめる理由と伝え方で扱います。
防ぎ方は、宛先を間違えにくくする工夫と、間違えても読まれにくくする工夫の2つです。
- 間違えにくくする:社外へ添付して送る前に、別の人が確認する
- 間違えても読まれにくくする:権限がないと開けないクラウドストレージで渡す
全員の全メールに確認を挟むと続きません。図面、見積、個人情報など、確認が要るものを先に決めます。製品で補うなら、メール誤送信防止ツールの比較で、送信の保留や上長承認の有無を見ます。
個人データを誤って送ったときは、報告が必要かどうかを個人情報保護委員会の案内で確かめます。誰が判断するのかも、平時に決めておきます。
なりすまし:自社名で送られるのをどう防ぐ?
3つ目は、自社が受け取るメールではなく、他人が自社の名前で送るメールの話です。自社の製品をいくら強くしても、この経路には届きません。
IPAの解説は、送信元がSPFやDMARCなどを適切に設定していない場合、メールソフトに表示される差出人は偽装が可能だと説明しています。取引先を守るために自社の送信元を設定する、という順番になります。
設定があるかどうかは、自社ドメインのDNSを管理している担当者か委託先に聞けば分かります。ドメインの管理者が誰か分からない場合は、そこから確かめます。
| 方式 |
役割 |
| SPF |
そのドメインの送信元として認めるサーバーを示す |
| DKIM |
メールに電子署名を付けて確かめられるようにする |
| DMARC |
両方の結果とFromのドメインを照らし、失敗時の扱いと報告先を示す |
この設定は、自社のメールが相手に届くかどうかにも関わります。Googleの送信者ガイドラインは、Gmailアカウントへ送るすべての送信者にSPFまたはDKIMの設定を求めています。
設定の順番と届かなくなる理由は、DMARCの設定と会社のメールが届かなくなる理由にまとめました。支援を頼むなら、DMARC導入・運用支援サービスの比較で、レポートの読み取りまで含むかどうかを確かめます。
3方向とは別に見ておくこと
メールのアカウントそのものが乗っ取られると、本物のアドレスから攻撃メールが送られます。IPAの2020年の注意喚起にも、アカウントが悪用され外部へ攻撃メールがばらまかれたという相談が載っています。多要素認証は、受信だけでなくこの備えにもなります。
どの順番で手を付ける?
費用がかからず、被害額に直結するものから進めます。
- 振込先の変更を確かめる決まりを作る
- メールの多要素認証を確かめ、未設定なら設定する
- 不審なメールの報告先を1か所に決める
- 外部へファイルを送る決まりを作る
- SPF、DKIM、DMARCの有無を確かめる
- メールサービスの標準機能を確かめ、足りない所に製品を足す
順番は会社で変わります。メールの配信や取引先への通知が多い会社は、5を早めたほうが、届かないトラブルを防げます。
大切なのは、1つの製品を入れて終わりにしないことです。答えに詰まった質問があれば、そこから担当を決めてください。メールのほかの論点はメールセキュリティの一覧に置いています。
全体の順位づけを確認したいときは、IPAの情報セキュリティ10大脅威 2026が参考になります。組織編では、機密情報を狙った標的型攻撃が5位、ビジネスメール詐欺が10位でした。