マルウェアは悪意のあるソフトウェアの総称で、ランサムウェアはその一種です。つまり「マルウェア対策」の中に「ランサムウェア対策」が含まれますが、ランサムウェアにはもう1つ、別に要る対策があります。攻撃が届かない場所に置いた、戻せるバックアップです。
今日やることは、バックアップの置き場所を確かめることです。業務サーバーと同じ管理者のIDで消せる場所にないか。最後に実際に戻してみたのはいつか。この2問を担当者に聞いてください。
2つの言葉の関係は?
総務省の用語辞典によると、マルウェアは「Malicious Software」を略した語で、攻撃をするソフトウェアの総称です。ウイルスと同じ意味で使われることもありますが、厳密にはさらに広い言葉で、ワーム、スパイウェア、ボット、キーロガー、トロイの木馬などを含みます。
ランサムウェアについては、国家サイバー統括室のハンドブックが、ファイルを暗号化して使用を不可能にするか、画面のロックなどで操作を不可能にするマルウェアの総称と説明しています。JPCERT/CCもマルウエアの一種と位置づけ、身代金要求型不正プログラムとも呼ばれるとしています。
関係を図にすると、大きな円がマルウェアで、その中の1つがランサムウェアです。「マルウェアに感染した」という報告だけでは、どの種類かは分かりません。「ランサムウェアに感染した」と言えば種類まで絞られます。
何が違うと困りごとが変わる?
種類によって、被害の出方が変わります。次の表は、会社で困る点の違いをまとめたものです。
| 種類 |
主なはたらき |
会社で困る点 |
| ランサムウェア |
データを暗号化して対価を要求する |
業務が止まる。多くは情報の公開でも脅される |
| スパイウェアやキーロガー |
情報や入力の内容を盗む |
気づかないうちに情報が外へ出る |
| ワーム、トロイの木馬 |
自己複製する、または正常なプログラムを装う |
別の不正な動きの足がかりになる |
ランサムウェアの特徴は、被害がその日の業務に表れることです。ほかのマルウェアは気づかれないよう動くものがありますが、ランサムウェアは脅迫文を残して自ら存在を知らせます。
ただし、警察庁の2026年上半期の資料によると、脅迫文が出るのは攻撃の最後です。その前に、侵入、権限の奪取、内部の探索、データの持ち出しが進みます。画面に現れる前の段階は、ほかの侵入と見分けがつきにくいということです。
どの対策が共通で、どこが別?
答えを先に表にします。
| 対策 |
マルウェア全般 |
ランサムウェア |
| 更新を適用する |
要る |
要る。VPN機器は特に急ぐ |
| パスワードと認証を強くする |
要る |
要る |
| 権限を必要最小限にする |
要る |
要る |
| ウイルス対策、EDRで検知する |
要る |
要る |
| 不審なメールに気をつける |
要る |
要る |
| 攻撃が届かないバックアップ |
データ保護として有効 |
復旧の土台として別に要る |
上の5つは警察庁の被害防止対策のページに並ぶ項目で、ランサムウェア専用というより基本の対策です。端末の対策を見直すときは、法人向けセキュリティソフトの比較で機能を並べ、入られた後の動きまで見るならEDRの製品比較へ進みます。
IPAの情報セキュリティ10大脅威 2026で、ランサム攻撃による被害が組織向けの1位に選ばれたのは11年連続です。基本の対策が今も問われ続けている、と読むこともできます。
なぜバックアップだけ別に考える?
ほかのマルウェアには、データを盗むことや、端末を足がかりにすることを狙うものがあります。その場合は駆除して原因を塞げば、データそのものは手元に残っていることがあります。
ランサムウェアは、データを使えない状態にします。JPCERT/CCは、暗号化されたファイルの復号は通常は困難で、バックアップが残っていないファイルは復旧が困難と想定して事業の継続を考えるのが一般的としています。元に戻す手段を事前に持っていないと、取れる道が限られます。
しかも攻撃者はバックアップも狙います。警察庁は、バックアップデータも暗号化される事例が多数確認されているとし、2025年の資料でも、復旧を妨害するため一緒に暗号化される場合が多いと書いています。公表事例でも、アスクルは同じデータセンター内のバックアップが暗号化され、復旧に時間を要しました。
だから、取ってあるだけでは足りません。次の3つを確かめます。
- 置き場所:JPCERT/CCは世代管理と、オリジナルとは別のネットワークでの保管を推奨しています。警察庁はネットワークから切り離したオフラインの保存を挙げています
- 頻度:警察庁は、なるべくこまめに取得するよう求めています。何日前の状態まで戻してよいかを業務ごとに決めます
- 戻す試験:警察庁は、日頃の運用面の課題でバックアップからの復旧がうまくいかない事例もあるとして、訓練で復旧手順を確かめるよう勧めています
製造業の場合で考えてみます。たとえば、図面を社内のファイルサーバーに置き、同じネットワーク上の機器へ毎晩自動でコピーしている機械メーカーの場合です。これは説明のための例です。攻撃者が管理者の権限を奪うと、コピー先の機器にも手が届く恐れがあります。
さらに、JPCERT/CCは自動でバックアップする仕組みでは、状況によって無事なファイルが上書きされて消える恐れがあると注意しています。世代を分け、ネットワークから切り離した置き場を1つ作ることが、ここでの備えになります。方式の違いは法人向けバックアップの製品比較で確かめられます。
バックアップがあれば安心なの?
いいえ、バックアップで解決するのはデータを戻すことだけです。次の2つは残ります。
1つ目は情報の流出です。警察庁の統計データによると、2026年上半期に手口が判明した66件のうち61件が、盗んだデータの公開でも脅す二重恐喝型でした。暗号化せずにデータを盗んで対価を求める手口も、別に9件報告されています。
2つ目は戻すまでの時間です。バックアップがあっても、侵入経路を塞ぎ、安全を確かめないと戻せません。止まる日数をどう乗り切るかは、別に決めておく必要があります。
ランサムウェアに絞って全体を読むならランサムウェアの記事一覧が入口です。実際の経過は公式発表でわかる事例の共通点とアサヒのサイバー攻撃の経過に、要求を受けたときの論点は身代金を払う前に知っておくことにまとめました。