法人のクラウドストレージは、容量と価格の前に、共有リンクの制限、権限、操作履歴、版の復元、認証と端末、退職時の処理、保存先と契約の7項目で比べます。どれも、事故が起きてから足そうとすると手間がかかる部分です。
今日は、いま使っているサービスの管理画面で、社外共有の設定を開いてください。認証なしで開けるリンクを誰でも作れる状態なら、比較の前にそこを直す判断が先に来ます。これから導入する会社は、候補の製品ごとに下の表を埋めていきます。
なぜ容量と価格だけでは比べられないのか
クラウドの安全は、事業者と利用者が役割を分けて保つものだからです。IPAの中小企業のためのクラウドサービス安全利用の手引き(2026年6月)も、この分担を前提に、選ぶとき、運用するとき、セキュリティ管理の3段階で確認点を挙げています。どんな設定ができるかは製品の差で、実際にどう設定するかは利用者の責任です。
設定の失敗は実際に起きています。総務省のクラウドの設定ミス対策ガイドブック(2024年4月)には、2023年の事例として、ファイル共有サービスの公開範囲の設定ミスにより、顧客や取引先、退職者などの情報が「リンクを知っているインターネット上のすべての人」に閲覧可能だったものが載っています。
国家サイバー統括室が2026年11月5日に出した文書も、設定の点検の例として、クラウドストレージのアクセスや外部共有設定を挙げています。
比べる7項目の一覧
機能の説明は製品ごとに言葉が違うので、同じ問いを各社に当てて比べます。
| 項目 |
確かめること |
困る場面 |
| 1 共有リンク |
認証なしのリンクを禁止でき、期限を強制できるか |
URLが転送されて広がる |
| 2 権限 |
部署や案件ごとに分け、管理者が上限を決められるか |
全社員が全案件を読める |
| 3 操作履歴 |
誰が何を共有し、開いたかを追えるか |
事故の範囲を説明できない |
| 4 版と復元 |
何世代、何日分を戻せるか |
上書きや暗号化で失う |
| 5 認証と端末 |
多要素認証と私物端末の制限ができるか |
パスワードの流出、私物への保存 |
| 6 退職時の処理 |
所有ファイルを誰へ移せるか |
共有が切れ、資料を失う |
| 7 保存先と契約 |
保存国、稼働の保証、解約時のデータの扱い |
解約後にデータが残る |
以下の製品名は、公式の説明を確かめられた例として挙げています。私たちが試した結果ではなく、機能はプランによって変わることがあるので、自社の契約で確かめてください。
1. 共有リンクは、管理者がどこまで縛れるか
共有の失敗を防ぐには、社員の注意に任せる形ではなく、管理者が全社の上限を決められる製品を選びます。
Microsoft 365の共有設定の説明では、社外共有の範囲を「すべてのユーザー」「新規および既存のゲスト」「既存のゲスト」「組織内のユーザーのみ」から選びます。「すべてのユーザー」のリンクは認証なしで開け、有効期限の強制や、表示のみへの制限ができます。同じページは、このリンクが転送されると、誰がアクセスしたかを追跡できなくなるとも説明しています。
Google Workspaceの説明では、組織外との共有のオンとオフを部門やグループごとに切り替えられ、信頼できるドメインとだけ共有を許可する設定もあります。変更の反映に最長24時間ほどかかることがある点も、切り替えの計画に入れておきます。
比較表には次の4つを書きます。
- 認証なしのリンクを全社で禁止できるか
- リンクの有効期限を強制できるか
- 共有相手を取引先のドメインに絞れるか
- 最初に選ばれるリンクの種類を管理者が決められるか
2. 権限は、上の設定が下を縛れるか
部署ごとに権限を分けられるのは多くの製品の前提です。見るのは、その設定の強さです。Microsoft 365では、サイトごとの共有設定は組織全体と同じか、より厳しくする必要があります。OneDriveの設定もSharePointより緩くはできません。
社員が個別に緩められる作りだと、棚卸しのたびに例外を探すことになります。社外と共有できる人を特定のグループに限れるかも、中小企業では効きます。
3. 操作履歴は、社外共有の一覧をすぐ出せるか
事故のときに最初に聞かれるのは「何が、誰に見えていたのか」です。答えるには履歴が要ります。Google Workspaceのドライブのログの説明では、公開設定で絞り込み、組織外と共有中のファイルを確かめられます。
比べるのは、履歴の有無だけではありません。
- 共有の設定と解除が記録されるか
- 閲覧とダウンロードまで記録されるか
- 何か月分を見られ、書き出せるか
- 見られる人を管理者に限れるか
他のシステムの記録とまとめて保管するなら、統合ログ管理ツールの比較も材料になります。
4. 版の履歴は、上限を数字で確かめる
版の履歴は、誤った上書きやランサムウェアからの復旧で頼りになりますが、上限はサービスと形式で違います。
Microsoftの説明では、Microsoft 365の新しいライブラリは既定でバージョン管理が有効で、最後の500バージョンが保存されます。Googleドライブの説明では、ドライブに保存したPDFや画像などの版は、30日後または新しい版が100個作られると完全に削除される可能性があり、残したい版は個別に固定します。
版の履歴はバックアップの代わりになるとは限りません。IPAの手引きは、重要情報を手元に確保し、複数世代を取るよう挙げています。同じ手引きの事故例には、事業者の作業ミスで5,000件を超える顧客データが消失したものもあります。
5. 認証と端末は、例外なく強制できるか
多要素認証の機能があるだけでは足りず、全員に強制できるかを見ます。社員ごとの任意設定だと、使っていない人のアカウントが弱点として残ります。既存のIDとまとめて管理するなら、IDaaSの製品比較を併せて見ます。
私物端末からの保存を止めたい会社は、端末の制限も確かめます。Microsoftの説明では、管理されていない端末からのアクセスを遮断するか、ダウンロードや印刷、同期ができないブラウザーだけのアクセスに制限できます。
6. 退職時のファイルは、どこへ行くのか
アカウントを消すと、その人が持っていたファイルと共有まで消えるのかを確かめます。Microsoftの説明では、ユーザーを削除するとマネージャーへOneDriveへのアクセス権が既定で渡り、既定では30日間、ファイルにアクセスしてダウンロードできます。マネージャーが未設定なら、誰にも渡らない場合があります。
Google Workspaceでは、管理者がファイルのオーナーを移管でき、ユーザーの削除時に移管することもできます。比較表には、移管の手段と、削除後に何日残るかを書きます。
7. 保存先と契約は、表に書いて残す
IPAの手引きは、データの保存先の国や地域、稼働率や回復目標、利用終了時のデータの扱い、適用法令と契約条件を確かめるよう挙げています。事業者を見る材料には、ISMAP、ISMSクラウドセキュリティ認証、クラウド情報セキュリティ監査制度、ASP・SaaS情報開示認定制度があります。
認証があっても、見られているのは事業者の側です。自社の共有設定まで保証するものではありません。
製造業の場合:図面を取引先と共有する前提で埋める
たとえば、金型メーカーが複数の取引先と図面をやり取りする場合を考えます。項目1では取引先のドメインだけに共有を許可できるか、項目2では案件ごとにフォルダーの権限を分けられるか、項目3では誰がダウンロードしたかを追えるかが、選ぶ決め手になりやすいところです。
クラウドに置くこと自体が直ちに問題になるわけではありません。経済産業省の営業秘密管理指針は、外部のクラウドで保管しても、秘密として管理されていれば秘密管理性は失われないとし、階層制限に基づくアクセス制御を例に挙げています。取引先との秘密保持契約に保管場所の条件があるかは、契約ごとに読みます。
比較表の作り方と、ストレージ以外の選択肢
○と×だけの表にすると、差が消えます。各マスには「管理者が全社に強制できる」「利用者ごとの設定」「上位プランのみ」のように、できる形を書きます。公開情報で埋まらないマスは、販売元に文面で確かめて残します。
ストレージだけで解けない課題もあります。
- 単発で大きなファイルを社外へ渡す:法人向けファイル転送サービスの比較
- 機密データの持ち出しを検知したい:DLP(情報漏えい対策)の製品比較
- 複数のクラウドの利用状況をまとめて見たい:CASBの製品比較
社員がすでに個人のサービスを使っている場合は、無料クラウドストレージの利用を止める手順を、導入後の権限と退職者の管理はSaaSの確認項目と権限の管理を見てください。クラウド全般の整理はクラウドのセキュリティのカテゴリにまとめています。